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 地球から遥か遠く、それはそれは小さな、この世でいちばん小さな惑星、空囮(くうが)。その星には地球にはない別次元が存在します。それは闇と呼ばれる生命体。生物の魂を喰らう悪魔。魂の箱庭。
 空囮には闇と現世を繋ぐ星の理がお伽噺となり言い伝えられています。

───────太古の昔、桃花色の太陽が沈む空囮の夜は闇潜む黒霧が地を侵していました。黒霧に飲み込まれた生物は魂が暗闇に呪縛され永遠の眠りを強いたげられます。抗うことのできぬ只黒き魔物を恐れ人々は何時しか一日一躰の生け贄を捧げることで安眠を得ていました。
 闇と人々の悪しき時が流れる中、闇への生け贄に奉られし一人の少年が永遠の眠りを拒み、闇との対話を望みました。闇は少年の望みを聞き入れ、己の真意を明かします。
 闇は魂の捨て地。喰わねば現世に不要な魂が彷徨い、魂同士が肉体を奪い合う輪廻の地獄世界となってしまう。現世と闇、2つの世界の均衡は保たねばならない。その為に私は魂を喰らうのだと。
 ならばと、少年は闇へ等価交換を申し出ます。現世には要らぬ罪人の魂が百とある。その魂を与えましょう。その代わり我々の平和を約束して欲しいと。
 闇は等価交換を受託し、少年へ土産に2つの蒼い石を持たせました。愛する妻に飲ませれば、生まれてくる子は二世界を繋ぐ継人となるだろう。またその魂は生命の理を覆す希なる美を備えようと。
 少年は闇との対話を終えると直ぐ様愛する娘へ夫婦の誓いとしてその石を捧げました。やがて娘のお腹に双子が宿り、少年は闇との約束通り蒼い石を娘に飲ませます。月日が経ち、生まれし双子のなんと美しいことでしょう。蒼い石は生まれた双子の額へ上弦の形に半球が埋め込まれていました。
 少年は闇との約束を忘れませんでした。星の罪人を生け贄に闇との対話を続け、またその場の継人として双子を並ばせました。人々は闇との共存に罪人のない平和な生活を手に入れたのです。
 しかしそれは束の間の休息でしかありません。
 双子が15の少年少女へ成人した日、闇は生け贄の魂を現世に甦らせ、少年と双子を襲わせました。闇は汚れた魂ばかりを喰らい続け邪心に侵されてしまったのです。父を救う為、双子は剣を取りその魂を闇に還しましたが、少年は息絶えてしまいました。
 少年を亡くした闇は自我を失い、亡者の魂を利用し双子や人々を再び襲い始めます。闇より甦りし死者を斬り裂けるのは、双子の織り成す剣のみ。
 人々はこの忌まわしき運命を少年の子供である双子に背負わせました。忌まわしい闇の魂を携えた双子。忌み子供、忌み子。お前達が死者を滅し続けろと。
 集落から追われた忌み子は
空囮の辺境に身を隠しました。二人だけでは戦力が足りぬと、忌み子は二人愛し合い、死者に対抗すべく子孫を産み落とします。しかし何人子を宿し産もうと死者を闇へ還す闇の剣を作り出すことができるのは二人の忌み子だけでした。
 時は過ぎ二人の寿命が尽きた日、忌み子は子孫のお腹に宿り、蒼い石を携え再び誕生します。一世代に二人、石の数だけ二つの魂が繋ぐ忌み子の力。子孫は忌み子の魂を繋ぐ為、子孫の血で閉ざした種族を築き上げました。
 その里の名は、忌み民の森。
 忌み子は何十年何百年と、転生を繰返し闇から人々を守り続けました。忌み民の森は闇と死者の脅威に晒されながら、忌み子の魂を繋ぎ続けたのです。

 時は千と九百過ぎ文明が進む近代の空囮。二世界の理は消え失せず、忌み民と闇の闘いは続いていました。平和に浸かりきった人々は闇や死者を忘却し、時が止まりし神秘な忌み民の森に魅せられます。
 森の種族と文化を交えた人々は愚かにも暗闇で武器を創り出す忌み子と忌み民の森の不人為な能力を恐れ始めました。その時代の空囮の長は種族の血を薄弱化する為二人の忌み子を引き離す様、森を脅迫します。
 忌み子同士が結ばれなくとも種族間で忌み子は必ず転生するのです、忌み民の森は長には逆らうことはなく、忌み子の二人は森の最東と最西端へ幽閉されました。
 しかし忌み子最期の世代、あきら様とゆかり様の運命を変えることは出来ませんでした。離れ離れとなった二人は誰知ることもなく惹かれ合い、愛し合ってしまったのです。
 掟を破った忌み子に怒り狂った長は森を滅ぼす強者を空囮中から召集します。
 忌み民が最も恐れる名前。その名は、使者。使者による“忌み民殲滅”が程無くして開始されました。
 森は毒に侵され砦壁は崩壊。多くの同朋が虐殺されいくなか星を追われた忌み子と数少ない忌み民は流れ着いた月という小さな星で穏やかな死を望みました。
 使者はその細やかな望みさえ許さず、月に遺された最期の忌み血を拐っていったのです。