薄れ行く意識の中で、僕は気付いた。アンリも、エンリコも、ヘンリクも、ヘンドリクスも、そして此のハインリヒも、僕の中から出てきた人達だったという事に。初めて聞いた筈なのに、どこか懐かしい声。それは僕の耳に時々起こる、あの奇妙な耳鳴りの声だった。エンリコが僕のキャンドルに触らなかった理由も、遠慮していたからではない。エンリコが僕の物に触ったことは一度もないのだ。彼が、小学生の頃の僕なのだろう。アンリはきっと、‘普通の人だ’と言われるような僕。実は心の底では猫のように甘えたかった、でも出来なかった僕。それがヘンリクとして現れた。僕には自覚がないけれど、本当は女性のようになりたかったのかも知れない。それで現れたヘンドリクス。