いつか見た装束姿。顔を覆う頭巾。


「とら…っ、」


 私の唇に、その手が触れた。


「静かに」


 小さく、か細い声でそう訴える。

 月明かりしか頼りがないためにあまりよくは見えないが、頭巾の隙間から見える目が歪んでいる気がする。

 呼吸も、不規則だ。


「怪我を?!」


 私の問いに、小さく首を横に動かす虎助。


「貴女はもう部屋へ。私は大丈夫。少し待てば、自分でなんとかします」
「放っておけと?」


 平気そうに努める目が、訴える。


「そういうわけにはいきません」


 その目を見つめ返す。

 すると、虎助は目を閉じ、そして静かに開くと、私の肩をグイと押し退け、フラリと立ち上がろうとする。


「トラ、」


 傷に障るのか、時折辛そうに呻きながら、立ち上がった。


「ダメ、虎助」


 私は慌てて虎助の装束の裾を捕まえた。