私は、夜、厠(かわや)に行く振りをして、よく庭から月を仰いだ。

 月が明るい日は、静かにその名を呼ぶ。


「トラ…、虎助」


 やはり木の葉が静かに揺れるだけだ。


「ねぇ、トラ、聴こえてる?」


 満月に語りかける。


「お前のことが知りたい」


 聴こえているでしょう?


「お前はどこから来たの?」


 静かに夜は更ける。