「私は、貴方のことが」


 月はいつでも私を照らしてくれる。


「あんなことがあっても、こんな時間に庭に出るのですね」


 声。


「トラ、」


 私は驚いて空を見上げた。

 私の真上、屋根の上に、虎助は立っていた。

 装束姿だった。頭巾はない。

 初めて、応えてくれた。


「虎助」


 嬉しい気持ちを抑えて、名前を呼ぶ。

 月が、私の歓喜の顔を照らしている。

 音もなく、虎助が降りてくる。


「静かに」


 困ったように、僅かに虎助の顔が歪む。