虎助は塀の外、屋敷の中にも視線をやる。

 騒がしい。

 最後に私を見た。

 握った羽織。


「虎助」


 名前を呼ぶ。

 虎助は、息を吐いて、手にしていた刀を静かに鞘に納めた。


「見ない方がいい」


 私の視界を、羽織で隠す。

 見上げた虎助の顔は、反り血で汚れていたが、見ない振りをした。

 代わりに、その胸に顔を埋める。

 血の臭い。

 虎助はただ立ったまま、私を受け止めるだけだった。








 ねぇ、虎助。

 貴方の手は、温かかったよ。

 私の手には、触れてくれないの?