「ちょちょちょ……ちょっと待ってぇ!」

 あたしは、見えないジンに向かって手をブンブン振った。

 よく、よーく考えてみてよジン!

 世界間の移動は、一回しかできない。つまり、来ちゃったら戻れないのよ!? 二度とよ!?

 あなたは、二度と、元の世界に、戻れないの!

 そこんとこちゃんと理解してる!?

 いや、あたしも操説や規約の類は全然読まないで、『えーい、やっちゃえ』ってタイプだから気持ちは分かるけど!

 今回は、読みましょう! 操説を!

 そして、規約を良く理解したうえでエンターキーを押しましょう! ね!?

 だってあなたの人生がかかってるのよ!?

『ソーセツってのが何かは知らないが、とにかくオレは行く』

「それでも来るの!?」

『ああ、行く』

「なんでえぇ!?」

『お前がいるから』

「……!」

『お前が居るべき場所が、オレの居るべき場所だからだ』

 …………。

 ぽっかり開いた両目から、再び涙がポロポロ落ちる。

 込み上がる気持ちは、喜び。

 無上の喜びが透明な雫となって、両目からあたしの頬を伝って落ちる。

 次から次へと。とめどなく。

「で、でも」

『なんだよ。まだなんか文句あるのか?』

「あなたが本当に生きるべきは、そっちの……」

 あなたは、そちらの世界の存在。銀色の風の精霊だ。

 なのに、居るべき場所を間違えてはいけないわ。

『あぁ、オレは風の精霊だ。居るべきも、へったくれもあるかよ。誰の指図も受けずに、己が望む方向へ吹く』

「……」

『それがオレの誇りで信条だ。譲らないぜ。絶対に』