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「初めまして…今度『鳴海』の社長に就任しました、鳴海静時です」

私の目の前で、ソツなく挨拶をした男は静かに微笑んだ…

「…初めまして、九条綾子です。父の秘書をしています」

初めて見る顔は、どことなく兄の風貌を思わせたが、根本的に何かが違う兄弟だった。

弟の方は…ぜんぜん食えないって感じだわね…

「…逃げた兄の代わりが、こんな若僧ですみませんが、我慢して下さいね」

本気で言っているのか、バカにして言っているのか…分からないけど、腹の立つ物言いだわね…!

「…本当に…あなた達兄弟は、失礼この上ないわね…!」

「お褒めに預かり光栄です…」

私は思わず立ちそうになったが、ウエイターがワインを運んで来たので仕方なく抑える…

ぜんぜん褒めてないわよっ…! いちいち腹が立つわねー!

…大体はじめは、この男の兄と婚約をしていたはずよね…?!

父の命令だとはいえ…乗り気のしない婚約だったけど、相手に逃げられるなんて(しかも女がデキて?!)いい笑い者だわ!

おまけに、その兄の代わりに婚約を引き継いだのは、私よりも三つ年下の弟だなんて…私の立場って何なのよ?!