――イーラ国とは、このアヴァリティア国の遥南に位置する国だ。
 こことは大分違ったお堅い国風で、和洋折衷な文化で溢れているという。


 クロードは和とはかけ離れた外見をしているが、そう言われてみれば服装が和と洋バランスの良いデザインである。


「そんな遠い所から、一人で来たのか?」


 まだまだ世間も知らないだろう少年であるにも関わらず、一人で渡航してきた。
 クレドはその意外な逞しさに思わず感心した。


「あ……うん、一人で来たよ。でもここへ来るのは、そんなに大変じゃなかったから」


 クロードは若干言い淀み、視線を横に反らす。


 その妙な躊躇いを、彼は見逃さない。
 別にクロードに変な疑りを持っているわけではないが、そんなあからさまに言い淀まれると、こちらとしては少し気になるではないか。



「どうしたの? クロード」


 クロードの隣に座っているキリエもまた、彼の様子を妙に感じたのか小首を傾げる。



「……いや、その」


「なんだ」



 はっきりしない物言いに舌打ちをしたくなるが、如何せんキリエの前だ。
 そんなことはしない。


 クロードは何かを考えているようで、1人で忙しそうにうんうんと唸っている。

 チェック柄のハーフパンツをギュッと握り締めるその小さな手が、以前のキリエと重なった。




「あの……! 実は僕、パンドラなんだ…!」


 そして勢いよく背筋を伸ばすとクレドに真っ直ぐな視線を投げた。



「……そうか、何のパンドラだ」



 クレドはそれを案外冷静に受け止めた。

 確かにパンドラは珍しいが、5つ持ちのパンドラを知っているのだ。
 もう並大抵のことでは驚かない。