「鞄のポケットも!」

 さっさと疑いを晴らそうと鞄を逆さにして揺すると、そこにはないはずのものが存在していた。

「嘘・・・・・・」

 机の上に転がったのは小さな消しゴムだった。これには一度も触れていないから驚きのあまり言葉を失った。

「これはどう説明する気だ?」
「私、盗んでいません。触れても・・・・・・」

 怒った店員がバンッと机を拳で叩きつけたのを見て、涙腺は緩んだ。
 どうしよう。もう本気で泣きそう。

「いい加減にしなさい!連絡先を言いなさい!早く!!」

 何を言っても、この人は話を聞いてくれない。
 どうすることもできないと思ったそのとき別の店員が部屋に入ってきた。

「あの、すみません」

 三十代くらいの男性が恐る恐る店員に話しかけた。

「後にしてくれ。今は忙しいんだ・・・・・・」
「ですが・・・・・・万引き犯を捕まえたんです」
「何だって!?」

 店員が部屋の奥へ進むと、さっきの女子高生と別の女の子が怯えながら入ってきて、その後ろには二十代前半と見られる男性がいた。
 店員の話によると、女の子達は学校や家がつまらなく、何か面白いことをしたいと考えて始めたのが万引きだった。別のところで同じことを繰り返そうとしたときに偶然私とぶつかって、そのときに盗んだ消しゴムを面白半分で私の鞄に忍ばせた。その後に本当に欲しかったものを鞄に入れようとしたところ、男性に見つかり、今に至る。

「だけど目撃者は・・・・・・」
「制服が似ていて、髪型も似ていたから、きっと勘違いをしたんですよ。顔はよく見えていなかったらしく、商品を盗んでいるところだけを見ていたようです」

 一体どうしてこんなことに巻き込まれたんだ。

「だからその子を帰してあげてください。何もしていないのですから」

 私をここに連れてきた店員は私を見て、先程とは違って顔を青くしていた。

「その、疑って申し訳ありませんでした」

 本当に。この人にも腹立つが、この女の子達にも腹が立って仕方がない。
 ここにいたくないので、荷物を鞄の中に入れ、謝り続ける店員に背を向け、店を後にした。

「喉が渇いたし、お腹も空いた」

 朝食に牛乳を飲んだくらいであとは何も飲んでいなかったので、喉がカラカラだった。

「俺も」

 驚いて跳ね上がると、さっきの男性が後ろにいた。

「あそこ、これから防犯カメラを設置するだろうね」
「そうですか」

 当分行かないことにした。今回の件で行きにくいところになってしまった。
 まさかこんな形で自分が巻き込まれるとは思ってなかった。