「普通未成年に酒勧める?
てかその量、どんだけ飲むわけ?」

「わ、冷た!
まぁあんたみたいなガキンチョにあたしのビールは渡さないけどね」


そう言ってあたしの隣にどかっとあぐらをかき、プシュッと缶を開ける。

「あ〜生き返る〜!!」とさきイカを片手に酒盛りを始めだした。



「沙和ちゃんって、本当残念な女の典型だよね」

「ん〜??何か言った??」

「いや別に」




沙和ちゃんは家ではこんなおっさんと化しているが、近くの病院に勤める看護師であり患者さんから『白衣の天使』と謳われている。

初めて職場で見かけた時には、これ詐欺じゃん、と驚いたものだ。

本人曰く騙しているつもりはないらしいのだけれど、その変貌ぶりはあたしに似たものを感じる。







「そーいえば梓、さっき美紀とエレベーターの所ですれ違ったよ」



『美紀』その単語が耳に入った瞬間、無意識にケータイを扱う指が止まる。


たったそれだけのことに一々反応してしまう自分がこの上なく煩わしい。



「へぇー」

「反応薄いな〜。
一応って言ったらあれだけどあんたの母親でしょうが」


「戸籍上はね。

あたし的には沙和ちゃんの方がよっぽど母親なんだけど」


確かにね、と少し寂しそうな表情で酒を煽る姿が視界の端に見えたけど、あたしはそれを見てないことにした。