「かいちょーは帰んないんですか?」
加藤の声に顔をあげようとしたとき、
目の前に現れたその伸びた、甘えたような声。
加藤ってこう思うと結構声低いよなぁなんて思えば、また自分が彼女のことを考えてることに気づく。
「戸締りしてから帰るよ。
お疲れな」
まるで恋する乙女だ、ほんと。
苦笑いの俺に
そーですかーなんて頷いて千田も教室を後にしていった。
加藤の姿も消えていたことに
なぜだかほんの少し心が痛んだ。
「やるか」
自分自身に区切りをつけるためそうつぶやく。
なぁ、加藤。
2週間前、公園に居たのは、
確かに君なんだよな?
距離は、どうやったら埋まる?
こっちはさ、
君に近づきたいんだ。
そちらは、どうですか?
それからものの10分。
ガラガラと扉が開く音がしてそちらを向けば
「あれ?どうした?」
「えへへ、ちょっと」
そこに居たのは、先ほど帰ったはずの千田。
忘れ物かとあたりを見渡すが
思しきものは無く…。
「あ、別に忘れ物じゃないですよー」
なんてふわふわと笑い、
そして俺の隣に腰かける。
「手伝おうと思って」
ニコッと笑いながら告げられた言葉に驚けば、
「分かりますよー
一年以上一緒にいますもーん」
なんて、やっぱりフワフワと笑う彼女に
こちらまで笑顔が漏れた。