「昔、」
プツンと切れた思考。
少し切なそうに話を始めた彼女の姿に、そっと目を閉じた。
「住んでた街にも、
こういう商店街があって。」
切なそうに、だけど愛おしそうに
ゆっくりゆっくり言葉をつなぐ君を見ていると、気がつくんだ。
大切な、”誰か”の存在に。
「よく、手伝ったなぁ‥」
その君の姿を見たくなくって、
大切な誰かに気付きたくなくって。
だから、ずっと目を閉じていた。
「ゆうちゃーん!」
オレンジ色の空に突き抜けた自分を呼ぶ声に振り返れば、首にタオルをかけたかずさんが自分を呼んでいる。
「なんだろ」
加藤の声に首を傾げながらも、自分を呼ぶ声に素直に従った。
なぁ、加藤。
今君はこんな風に呼んだらちゃんとこっちに来てくれる?
切なそうに話す昔の街の話とか
いつも使う青いシャーペンとか
全部、意味があるのかな?
ねぇ、加藤。
君にとって絶対的な、大切な誰かは、もう決まってるのかな?