「いや。いなかった。
どうかした?」
それが嫌だったから。
だから、本当のことを
言えなかった。
加藤、ごめん。
君は優しいって言ってくれたけど。
俺はどんどんズルい男になっていく。
優しいって、言ってくれた俺は、
もうどこにもいないかもしれない。
こんなん、加藤が惚れなくて当然だ。
「そっか、そうですよね。
なんでもないです。」
笑った加藤の笑顔が少し硬かったことには、
何か意味があるのだろうか。
意味があるなら。
それは、どういう意味ですか。
「あ、こっち」
なんとなく続く沈黙。
気まずいってわけじゃないけど。
だけど、せっかく一緒に居られるなら
何か喋れたら。
加藤のこと、知りたくて。
「…夏休み、楽しい?」
それが自分を傷つける質問だとしても。
それでも知りたかった。