あれから雨の日は会うたび、駅まで一緒に行った。


何日かが経って、ある休日の午後に蒼井くんから電話がかかってきた。


「もしもし」


『あ、俺。蒼井。あのさ今から出られる?』


……えっ今!?


「え、なんで?」


『暇だから。水原も特に用事ないだろ?』


「や、ないけど。ないだろって」


強制ですか蒼井さん。


ていうか思わずつっこんじゃったよ。


『相手してよ。それとも嫌?』







蒼井くんからの誘い嫌なわけないじゃん。


むしろ喜んで行くし。


「嫌じゃないよ?えーとどこ行けばいい?」


『〇〇カフェ』


「了解。じゃあ、今から行くね!」


そう言って、電話を切った。


……そういえば、彼女さんいないのかな。


いたら普通デートしてるか。


いや、でも蒼井くんだしいてもおかしくないもんな……


……自分で思ってて悲しい。


あ、とりあえず行かなきゃ。


服は……これでいっか。


気合い入れてると思われたくないし、

赤と黒のチェックシャツに中に長袖Tシャツ、

下はカーキ色のショートパンツでニーハイに黒のハイカットスニーカーにした。








「遅い」


カフェに着いて、蒼井くんの所に行って言われた一言。


「あ、ごめん…」


そんなに待たせちゃったかな……


蒼井くんは不機嫌な顔から目を細めてフッと笑った顔に変わった。


「嘘、別に怒ってない。俺が急に呼び出したんだし」


「…はぁ~なんだ。またからかわれただけか」


「ごめんごめん(笑)とりあえず座れば?」


「うん」


私は蒼井くんの向かいの席に座り、蒼井くんの方を見るとミルクティーがあった。








「蒼井くん、ミルクティー?」


「ん、なんで?」


「いや、イメージなくて」


「どんなイメージなの?」


蒼井くんはそう言って、フッと笑う。


「ブラックとか普通に飲む感じ」


そう言いながら私は、スマートにブラックを一口飲む蒼井くんを頭の中で浮かべる。


「ブラックは無理だね。…水原も何か頼んだら?」


「あ、うん」


私は近くにいた店員さんを呼んで、アイスカフェラテを頼んだ。







「なんとなく頼みそうな気した」


「どうして?」


「ココアとか甘いの飲まなさそうなイメージ」


「んー…まぁ、確かにココアは飲まないかも」


甘いものいっぱいは食べられないしね。結局、あまり甘くない飲み物にしちゃうんだよね……


少ししてカフェラテがきた。


「それ一口ちょうだい」


そう言って、蒼井くんは私のカフェラテのストローに口をつけた。


「…ん、飲めなくはないな。水原は俺のミルクティー飲んでみ?」


そう言って私にミルクティーを差し出す。







……これ。か、かか間接キスでは!?


いや、こんなの蒼井くんは気にしないのだろうか。


「……あ、じゃあ、一口」


そう言ってミルクティーを一口飲む。


口にふくんだ瞬間、ちょっと甘めなミルクティーが口いっぱいに広がった。


顔をあげると、蒼井くんにじっと見られていたことに気がついた。


「…ミルクティーも、美味しいかも」


「と言いながら俺に返すっていう(笑)」


「だ、だって、蒼井くんのだし」


飲めなくはないが、少しでいいと思ったことは秘密にしておこう。


「まぁね」


そう言いながら、お互い自分の飲み物を飲む。








「……あ、のさ、蒼井くんは彼女さんとかいないの?」


「急だな(笑)」


ふと今まで考えていたことが、つい口に出てしまった。


「いないよ。なんで?」


「え、あっ彼女さんいたら、普通デートとか行ってるんだろうなーと思って」


「まぁ、いないからこうしてるんだろうね」


……ヤバい。蒼井くんに彼女いなくてホッとしてる自分がいる。


「水原は?」


「いないよ。いたら逆に自分がびっくりだよ」


「ふーん。でも、中学の時水原のこと狙ってた奴らいたよ?」


「へー、物好きだね」


こんな私のどこがいいんだか。


「自分のことなのに」


そう言って蒼井くんは小さく笑う。








「蒼井くん、中学の時好きな子とかいた?」


「んー…気になる子は、いたかな」


「……へー、そうなんだ」


気になる子か。


……誰だったんだろう。


それが私だったらなー…なんて。


まぁ、そこまで夢見てないけどね。


「水原はいたの?」


「……いたよ」


しかもその相手があなたなんですけど。


「へー。上手くいった?」


「んー、告白出来なかったんだよね」


「そっか。…あ、そういえばさ」


そう言いながら、その後は中学の時の話やお互いの高校の話をした。


蒼井くんが話を変えなかったら、私はあのまま「気になってた子は蒼井くん」と言っていたかもしれない。


少し近づきたいと思う自分と、今のままがいいと思う自分がいた。









「ごめん、長く付き合わせちゃって」


「ううん。楽しかったよ!」


時間がいつの間にかこんなに過ぎちゃって、今は
16時。


あれから2人が飲み終わって、少ししてから店を出た。


あっという間で、別れるのがちょっと寂しい。


連絡は取り合えるけど。


「俺も。…本当に送らなくて大丈夫?」


「うん。近いし、まだ暗くないから」


それに彼女でもないのにそんな図々しいこと出来ないもん。