私はまた大きい声が出そうになって、急いでそれを防ぐように自分の口をおさえた。
「……何してんの?」
今の行動を奇妙に思ったのか、蒼井くんが聞いてきた。
「また大きい声が出そうだったので」
「何それ(笑)」
そう言って蒼井くんは目を細めて笑う。
「もう…ってそうじゃなくて。あの、アドレスって私の?」
「他に誰がいるの?」
「え?いや……」
「俺に教えるの嫌?」
「そんなことないよ!あの……」
「ん?」
「蒼井くんのも、教えてくれる?」
「当たり前じゃん。じゃあ、降りたら赤外線で交換な?」
「うん」
うわぁ、まさか教えてもらえるなんて……
――――――――――――――…
「これで完了」
駅に着き改札を出て、邪魔にならない所でお互いのアドレスと番号を交換した。
「ありがとう!」
ついに蒼井くんのアドレスが、私のケイタイに……
「そんなに嬉しい?」
「うん!」
すっごく幸せだよ!
ヤバい、ニヤケそう……
「変なの(笑)じゃあな」
蒼井くんはそう言って、私の頭をポンポンとして行ってしまった。
「はわぁ……」
……はっ!
私も行かなきゃ。
歩き出し、ふと思った。
なんで急に教えて欲しいなんて……
まぁ、いっか。
私も聞きたかったし。
その夜“登録しました”とメールし、蒼井くんからもメールがきた。
あれから雨の日は会うたび、駅まで一緒に行った。
何日かが経って、ある休日の午後に蒼井くんから電話がかかってきた。
「もしもし」
『あ、俺。蒼井。あのさ今から出られる?』
……えっ今!?
「え、なんで?」
『暇だから。水原も特に用事ないだろ?』
「や、ないけど。ないだろって」
強制ですか蒼井さん。
ていうか思わずつっこんじゃったよ。
『相手してよ。それとも嫌?』
蒼井くんからの誘い嫌なわけないじゃん。
むしろ喜んで行くし。
「嫌じゃないよ?えーとどこ行けばいい?」
『〇〇カフェ』
「了解。じゃあ、今から行くね!」
そう言って、電話を切った。
……そういえば、彼女さんいないのかな。
いたら普通デートしてるか。
いや、でも蒼井くんだしいてもおかしくないもんな……
……自分で思ってて悲しい。
あ、とりあえず行かなきゃ。
服は……これでいっか。
気合い入れてると思われたくないし、
赤と黒のチェックシャツに中に長袖Tシャツ、
下はカーキ色のショートパンツでニーハイに黒のハイカットスニーカーにした。
「遅い」
カフェに着いて、蒼井くんの所に行って言われた一言。
「あ、ごめん…」
そんなに待たせちゃったかな……
蒼井くんは不機嫌な顔から目を細めてフッと笑った顔に変わった。
「嘘、別に怒ってない。俺が急に呼び出したんだし」
「…はぁ~なんだ。またからかわれただけか」
「ごめんごめん(笑)とりあえず座れば?」
「うん」
私は蒼井くんの向かいの席に座り、蒼井くんの方を見るとミルクティーがあった。
「蒼井くん、ミルクティー?」
「ん、なんで?」
「いや、イメージなくて」
「どんなイメージなの?」
蒼井くんはそう言って、フッと笑う。
「ブラックとか普通に飲む感じ」
そう言いながら私は、スマートにブラックを一口飲む蒼井くんを頭の中で浮かべる。
「ブラックは無理だね。…水原も何か頼んだら?」
「あ、うん」
私は近くにいた店員さんを呼んで、アイスカフェラテを頼んだ。
「なんとなく頼みそうな気した」
「どうして?」
「ココアとか甘いの飲まなさそうなイメージ」
「んー…まぁ、確かにココアは飲まないかも」
甘いものいっぱいは食べられないしね。結局、あまり甘くない飲み物にしちゃうんだよね……
少ししてカフェラテがきた。
「それ一口ちょうだい」
そう言って、蒼井くんは私のカフェラテのストローに口をつけた。
「…ん、飲めなくはないな。水原は俺のミルクティー飲んでみ?」
そう言って私にミルクティーを差し出す。
……これ。か、かか間接キスでは!?
いや、こんなの蒼井くんは気にしないのだろうか。
「……あ、じゃあ、一口」
そう言ってミルクティーを一口飲む。
口にふくんだ瞬間、ちょっと甘めなミルクティーが口いっぱいに広がった。
顔をあげると、蒼井くんにじっと見られていたことに気がついた。
「…ミルクティーも、美味しいかも」
「と言いながら俺に返すっていう(笑)」
「だ、だって、蒼井くんのだし」
飲めなくはないが、少しでいいと思ったことは秘密にしておこう。
「まぁね」
そう言いながら、お互い自分の飲み物を飲む。