私がじー…っと見ていたせいか、蒼井くんがこっちを向いた。


「ん?」


「あ、いや…今日は電車なんだ」


もうちょっと違うこと言えなかっただろうか。


咄嗟に適当な質問をしてしまった。


「あぁ、午後から雨降るらしいし。濡れるの嫌だからね」


「そっか……」


なんか真帆みたい。よくわかんないけど。


「…」


「…」


何故か沈黙。


なんか話した方がいいかな……








「あのさ」


「はい!」


「しっ」


「ごめんなさい…」


小さい声で謝った。


珍しく蒼井くんから話しかけられたから、びっくりして声が大きくなってしまった。


ここ電車だしね。
何人か私の声に反応してこっちを見ていた。


私は恥ずかしくて俯いた。








「……ククッ」


その声に反応して顔をあげると、隣で蒼井くんが肩を震わせて笑いをこらえていた。


「ちょっと、そんな笑うことじゃないでしょ」


私は今度はちゃんと声を潜めて言った。


「ご、めん…だって…っ」


はぁ、まだ笑ってるよ。


こっちはすごい恥ずかしい思いしたのに……


「はぁー……」


やっと笑いがおさまったみたいだ。


はぁー…って、そんなに可笑しかったかな。


「……あの、さっき何言おうとしたの?」


「あぁ、アドレス教えて欲しいなって」


えっ!?








私はまた大きい声が出そうになって、急いでそれを防ぐように自分の口をおさえた。


「……何してんの?」


今の行動を奇妙に思ったのか、蒼井くんが聞いてきた。


「また大きい声が出そうだったので」


「何それ(笑)」


そう言って蒼井くんは目を細めて笑う。


「もう…ってそうじゃなくて。あの、アドレスって私の?」


「他に誰がいるの?」


「え?いや……」


「俺に教えるの嫌?」


「そんなことないよ!あの……」


「ん?」


「蒼井くんのも、教えてくれる?」








「当たり前じゃん。じゃあ、降りたら赤外線で交換な?」


「うん」


うわぁ、まさか教えてもらえるなんて……











――――――――――――――…


「これで完了」


駅に着き改札を出て、邪魔にならない所でお互いのアドレスと番号を交換した。








「ありがとう!」


ついに蒼井くんのアドレスが、私のケイタイに……


「そんなに嬉しい?」


「うん!」


すっごく幸せだよ!


ヤバい、ニヤケそう……


「変なの(笑)じゃあな」


蒼井くんはそう言って、私の頭をポンポンとして行ってしまった。


「はわぁ……」


……はっ!


私も行かなきゃ。


歩き出し、ふと思った。


なんで急に教えて欲しいなんて……


まぁ、いっか。


私も聞きたかったし。


その夜“登録しました”とメールし、蒼井くんからもメールがきた。









あれから雨の日は会うたび、駅まで一緒に行った。


何日かが経って、ある休日の午後に蒼井くんから電話がかかってきた。


「もしもし」


『あ、俺。蒼井。あのさ今から出られる?』


……えっ今!?


「え、なんで?」


『暇だから。水原も特に用事ないだろ?』


「や、ないけど。ないだろって」


強制ですか蒼井さん。


ていうか思わずつっこんじゃったよ。


『相手してよ。それとも嫌?』







蒼井くんからの誘い嫌なわけないじゃん。


むしろ喜んで行くし。


「嫌じゃないよ?えーとどこ行けばいい?」


『〇〇カフェ』


「了解。じゃあ、今から行くね!」


そう言って、電話を切った。


……そういえば、彼女さんいないのかな。


いたら普通デートしてるか。


いや、でも蒼井くんだしいてもおかしくないもんな……


……自分で思ってて悲しい。


あ、とりあえず行かなきゃ。


服は……これでいっか。


気合い入れてると思われたくないし、

赤と黒のチェックシャツに中に長袖Tシャツ、

下はカーキ色のショートパンツでニーハイに黒のハイカットスニーカーにした。








「遅い」


カフェに着いて、蒼井くんの所に行って言われた一言。


「あ、ごめん…」


そんなに待たせちゃったかな……


蒼井くんは不機嫌な顔から目を細めてフッと笑った顔に変わった。


「嘘、別に怒ってない。俺が急に呼び出したんだし」


「…はぁ~なんだ。またからかわれただけか」


「ごめんごめん(笑)とりあえず座れば?」


「うん」


私は蒼井くんの向かいの席に座り、蒼井くんの方を見るとミルクティーがあった。