自分の教室に着き、自分の席に鞄を置いて椅子に座った。
「はぁ……」
そういえば、アドレス聞くの忘れた。
実は蒼井くんのアドレス知らないんだよね。
「なーに朝からため息ついてんの?」
「あ、おはよう真帆」
私の親友である藍沢 真帆(アイザワ マホ)が軽く笑いながら、私の前の席に座って聞いてきた。
「はよ。で、どうした?」
「今日、電車で蒼井くんに会ったんだ」
「蒼井ってあの蒼井?」
「うん」
真帆とは中学から一緒で当然蒼井くんのことを知っている。
そして、私が蒼井くんを好きだったことも知っている。
…え?だったら電車一緒のはず?
真帆は途中で濡れるの嫌だからって、雨の日は車で送ってもらっている。
だから雨の日は別々に登校しているのだ。
「何?まだ好きかもみたいな?」
「えっ、なんでわかるの!?」
真帆、エスパー!?
「いや、なんとなく予想つくし、結局中学のとき告白しなかったし」
「いや、それは……」
勇気なかったというかなんというか。
「まぁ、雫がいいならいいけどさ。でも、また次会ったらチャンスだし、告っちゃえば?」
真帆は面白半分にニヤリと笑いながら言った。
「なっ!久しぶりなのに急にはおかしいでしょ!!」
真帆はすぐ人のことからかうんだから……
「ハハッ!まぁとにかく頑張りな」
「うん」
あれから4日が経った。
……なんで雨降らないんだろう。
いや、好きなわけじゃないんだけど。
ちなみに今日は曇り。
午後から小雨が降ると、お天気お姉さんが言っていたけど……
あ、真帆は今日は委員会で先に登校。
電車内を見回したけど、蒼井くんはいなかった。
もう電車動いてるし、今日も自転車かな。
やっぱり、あれは偶然だったのか……
「はぁ……」
「幸せ逃げるよ?」
「!?」
私の頭の上にポンと手を置いて、フッと笑っている蒼井くんがいた。
「あ、おっおはよう!」
「はよ(笑)なんでそんなキョドってんの?」
「い、いやぁ、あの……」
蒼井くんのこと考えてたからなんて言えない///
「まぁいいけど」
そう言って蒼井くんはクスリと笑っていた。
そんな姿にもキュンとしてしまう私は、やっぱり蒼井くんが好きなんだと思った。
私がじー…っと見ていたせいか、蒼井くんがこっちを向いた。
「ん?」
「あ、いや…今日は電車なんだ」
もうちょっと違うこと言えなかっただろうか。
咄嗟に適当な質問をしてしまった。
「あぁ、午後から雨降るらしいし。濡れるの嫌だからね」
「そっか……」
なんか真帆みたい。よくわかんないけど。
「…」
「…」
何故か沈黙。
なんか話した方がいいかな……
「あのさ」
「はい!」
「しっ」
「ごめんなさい…」
小さい声で謝った。
珍しく蒼井くんから話しかけられたから、びっくりして声が大きくなってしまった。
ここ電車だしね。
何人か私の声に反応してこっちを見ていた。
私は恥ずかしくて俯いた。
「……ククッ」
その声に反応して顔をあげると、隣で蒼井くんが肩を震わせて笑いをこらえていた。
「ちょっと、そんな笑うことじゃないでしょ」
私は今度はちゃんと声を潜めて言った。
「ご、めん…だって…っ」
はぁ、まだ笑ってるよ。
こっちはすごい恥ずかしい思いしたのに……
「はぁー……」
やっと笑いがおさまったみたいだ。
はぁー…って、そんなに可笑しかったかな。
「……あの、さっき何言おうとしたの?」
「あぁ、アドレス教えて欲しいなって」
えっ!?
私はまた大きい声が出そうになって、急いでそれを防ぐように自分の口をおさえた。
「……何してんの?」
今の行動を奇妙に思ったのか、蒼井くんが聞いてきた。
「また大きい声が出そうだったので」
「何それ(笑)」
そう言って蒼井くんは目を細めて笑う。
「もう…ってそうじゃなくて。あの、アドレスって私の?」
「他に誰がいるの?」
「え?いや……」
「俺に教えるの嫌?」
「そんなことないよ!あの……」
「ん?」
「蒼井くんのも、教えてくれる?」