「いちぎ、遅い」

しーちゃんは僕の事を「いちぎ」と呼ぶ。
一義。「かずよし」と言う僕の名前の漢字が読めなかった当時幼稚園生の彼女は、漢字辞典を持ち出して来て二つの漢字の読み方を調べ、その結果として僕は「いちぎ」になった。
そしてしーちゃんこと詩織ちゃんは、いつまでもしーちゃんなのだ。

「いちぎ、凄く面白い事がある、よ。」

やっぱりしーちゃんは今日、機嫌が良い。
しーちゃんと僕は、”部活”に入っている。
部長、しーちゃん。副部長、僕。以下部員、0名。
活動内容なんか何も無くて、強いて言えばこうして部室でお昼ご飯を食べる事と放課後部室に残って世界の破滅についてしーちゃんの独断と偏見に満ちた感想と考察を延々と聞かされる事が活動内容なのかもしれない。

そんな目茶苦茶な僕等を、教師は相手にしない、生徒は避ける。
こんな性格のしーちゃんは教師に嫌われて、側にいる僕も、同じ扱いだ。それを嫌だとは思わないが。
やっぱり、嫌われているのだ。僕等は、世界に。