◇ヤヨイ◇
竜王様だったハクリュウに気に入られ、天界に連れて行かれた人間の娘。
ハクリュウの本気の愛に気づき、ヤヨイも好きに。
天真爛漫で、琥珀色の瞳を持つ17才。
◆ハクリュウ(白龍)◆
天界の先代竜王。
あらゆる天候を司り、操る能力を持っていたが、ヤヨイと人間界へ行くため、コウリュウにその全てを託した。
眉目秀麗、冷酷無比のワガママ竜王だったが、今は・・・。
◇コウリュウ(紅龍)◇
天界の現竜王にして、優秀なハクリュウの実弟。
妹のコハク(琥珀)を愛していたが、失ってしまう。
才色兼備で妖艶な美貌の持ち主。
◆イオリ(庵)◆
コウリュウ付の小間使い。
かつては、コハクの世話係だった。
密かにコウリュウに想いを寄せている、赤い髪の龍族の娘。
日本人形のような顔立ちと、雰囲気を持つ。
◇シリュウ(紫龍)◇
美しい容姿の、ナルシスト。
龍の一族の娘。
ハクリュウに数々の無礼を働き、半殺しの目に遭う。
◆NEWキャラも登場◆
·コクリュウ(黒龍)
·キリュウ(黄龍)
·リョクリュウ(緑龍)
·シキ(四季)
·エミ(笑)
白の村は、今日も平和であった。
村人の間には笑い声が絶えず、田畑を耕す者、商いを営む者、演芸に磨きをかける者。
それぞれが思い思いに、生計をたてて暮らしていた。
「あっハク様・・・。
ハク様、見回りですかい?
いつも、ご苦労な事です。」
「ハク様!これどうぞ!
家で取れた桃です。
召し上がって下さい。」
農作業をしていた夫婦が、村の様子を見に来ていた村長を見つけて、嬉しそうに駆け寄って来た。
ハク様とは勿論、ハクリュウの事であり、3年前まで天界で現役の竜王をやっていた。
あの時の、冷酷無比な面影は今はなく、村人達から気さくに声をかけて貰えるような、慕われる村長であった。
ほとんど龍の能力を無くしたハクリュウは、自らリュウを名乗る事を止め、気ままな人間界での生活を楽しんでいる。
「ほぉ、旨そうだな。
馳走になろう。
して・・・村の様子に変わりはないか?」
相変わらずの物言いではあるが、白い豪奢な衣装をまとった村長は、以前とは全く真逆の柔和な瞳で、夫婦と短い談笑を交わし、その場を後にした。
今日は、散策を兼ねての屋敷近辺の視察だったため、ハクリュウは徒歩であった。
粗方の視察が終わり、屋敷へ向かっていたハクリュウは、お供の者達と別れ、1人になるや否や、綺麗に手入れされた屋敷の庭園を全力で駆け抜けた。
「ヤヨイ?ヤヨイ?」
慌ただしく屋敷の中に入ると、ハクリュウは愛しい妻を探す。
「とーたま。どうしたの?」
通訳が必要なほど、たどたどしい言葉遣いの女の子の声が、ハクリュウを呼び止めた。
「おぉリョク(緑)。
ヤヨイ・・・母様はどこだい?」
リョクとは、3歳になるハクリュウとヤヨイの子供である。
“たまご”ではなく、正真正銘人間の姿で生まれた女の子だ。
ただ、生まれた時両肩に、エメラルドのように輝く緑色の鱗が数枚付いていた。
髪の色も、新緑が芽吹くような深い緑色だったため、天界の風習に倣い、子供の名前はリョクリュウ(緑龍)と付けた。
しかし、ハクリュウは自分と同じく、リュウは省いて呼んでいる。
この先、リョクの龍としての能力が、開花しなければいいが。
目下ハクリュウの、懸念すべき事柄であった。
ハクリュウは方膝をついて、その場にしゃがみ、リョクの頭を撫でた。
「かーたま、コウおじたんと、おはなしあいます。」
「コウリュウが来てるのか?」
「だいじの、おはなします。
だからリョクは、いいこしてるなの。」
リョクはエヘンと胸を張って、ハクリュウに教えた。
「そうか。
リョクは偉いな。」
思いきり目尻を下げて、愛しい我が子を抱きしめ、リョクの手に桃を1つ乗せると、ハクリュウはヤヨイの元へと向かったのだが。
その表情は一変し、いささか不機嫌さを帯びている。
例えコウリュウが血の繋がった実の弟とはいえ、自分が同席していない部屋にヤヨイと2人きりで居る事は、ハクリュウにとって到底許せるものではなかったのだ。
バタンッ!!
客間の扉が、勢いよく押し開けられると、中に居た2人はびっくりして、同時にこちらを向いた。
「お前達、何をしておる!
今すぐ離れぬか!」
離れるも何も、応接テーブルを挟み、向かい合って座っていただけのヤヨイとコウリュウに、これ以上離れる術などない。
乱暴に入室してきた人物に、抗議の声をあげたのはコウリュウであった。
「何をしておるって・・・。
兄上、どんな想像してるんですか。」
そんな呆れたコウリュウとは対照的に、一目見てすぐに分かるほど、ヤヨイは嬉しそうな表情をしていて、それは非常にハクリュウの勘に障った。
「見よ。ヤヨイがこんなに嬉しがっているではないか。
何をしておった?」
ハクリュウは、それすらも気になって仕方がないのだ。
「ハクリュウ待ってたの。」
にっこりと微笑んだヤヨイは、ソファーから立ち上がり、ピョンピョンと跳び跳ねてハクリュウの腕を取った。
「・・・どうしたのだ?」
息巻いていたハクリュウの感情はどこへやら、自分の腕にヤヨイの腕が絡むと、コロッと笑顔になり、理由を聞くためにソファーに腰かける。
『兄上の溺愛ぶりにも、益々拍車がかかったな。
以前の冷酷な竜王陛下は、どこへ消えてしまったんだ。』
コウリュウは、目の前の2人を見て、クスっと笑いが込み上げた。
「コホン・・・。
して?何事があったのだ。」
コウリュウに笑われた事に気づき、ハクリュウは咳払いと共に、場の空気を変えた。
ヤヨイは瞳をキラキラと輝かせ、胸の前で両手を組み、ハクリュウに勿体ぶってみせる。
「だから、何なんだ?」
焦らされたハクリュウは、ヤヨイを急かす。
「なんと!
コウリュウさんが!
ついに決断したの!」
「何を?」
「イオリさんへの
プ·ロ·ポ·オ·ズ!」
「はぁ・・・!?
何事かと思えば、その事か。」
「何よ!
迷って迷って、やっと決心したのに!
ねぇ?コウリュウさん」
「まぁ・・・そうだな。」
実は、コウリュウ。
竜王になったはいいが、民達に分け与える生気をどうしたらいいか、考えあぐねていた。
妃を迎えるのが、一番正当な方法なのだが、コウリュウは足踏みしていたのだ。
ハクリュウ同様、龍の一族の中に、妃にしたいと思える相手は居なかったからだ。
それにやはり、どこかにコハクの面影を追ってしまいそうで、怖かった。
「シリュウにしておけ。」
煮え切らないコウリュウの態度に、ハクリュウが冗談交じりに言った一言は、瞬時に却下され、人間界でいうところの4年余りを、コウリュウはここへ、足繁く相談に通う羽目になったのだ。
ハクリュウは隣に座るヤヨイの肩に手を回し、楽しむように髪を撫でた。
「愛する者と共にある事。
我には、これ以上の幸せは考えられぬ。
どんな贅沢も、どんな能力も、ヤヨイが側に居ねば、無いに等しい。
お前が竜王を引き受けてくれた事、これでも感謝しておるのだ。
だからコウリュウ・・・。
お前には、こんな満たされた生活を、取り戻してほしい。
コハクを忘れろとは言わぬ。
イオリを愛でてやれ。」
「兄上。」
コウリュウは、うっすらと潤んだ瞳を隠すため、無理矢理眉を潜めて見せた。
「そうですよ。
元はと言えば、兄上のせいではないですか。」
「ほぅ。
我にその様な口の聞き方をするか。」
「もう!ハクリュウったら!」
意地悪い笑いを浮かべたハクリュウを、軽くたしなめて、ヤヨイはコウリュウに向き直った。
「天界に帰ったら、早速イオリさんに申込んで下さいね。
イオリさんは、龍の一族ではないかもしれないけど、誰よりもコウリュウさんの理解者だし、王妃様にも相応しい女性だわ!」
ヤヨイの脳裏には、赤い髪をした日本人形のようなイオリの、はにかんでいる姿が、浮かんでいるのだった。
そのイオリが居る天界では、善からぬ会談の席が、設けられていた。
天界の辺境にある、ひっそりと佇む古びた小屋。
その中では、密会と呼ぶに相応しい体で、3人の男女がヒソヒソと、声を潜めて会話している姿があった。
黄色い髪の男が、話しの中心にいるようで、黒い短髪の男に何やら話しかけている。
「おい、コクリュウ。
先代のハクリュウ王の突然の死は、王弟で現竜王陛下の暗殺によるものだと言う噂、お前も聞いたか?」
「いや、俺は知らない。
本当にそんな噂が、流れているのかキリュウ?
どこからそんな、根も葉もない噂・・・。
コウリュウ様は、絶対にそんな事をする方ではない。
ハクリュウ王を尊敬し、優秀な右腕として仕えていた方が、暗殺など。」
キリュウと呼ばれた男は、黄色の長い前髪をかきあげて、粘着性のあるニヤリとした笑いを、コクリュウと呼んだ真面目そうな男に返した。
「でもコクリュウ、僕は案外真実なんじゃないかと、思っているんだよ。
ハクリュウ王の寵姫となった、巫女の瞳・・・コハク様と同じ色をしてただろ。
ハクリュウ王が消えてくれれば、巫女は陛下の手に入る。
証拠に今陛下は、頻繁に人間界へ通っているらしいんだ。」
それを聞いてコクリュウは、軽く目を見張った。