それに合わせて、朱翔も、話し掛けて来ないことに、安心をしていた。













だけど、それは、作戦だったということとは、今の私は、知る由もない。






昼休み。
私は、屋上に来ていた。







「ねぇ、紗姫。」






「しゅっ、しゅうとぉぉっ?!」






「………アハハッ、紗姫面白い。」






「っ………!!」





突然、ボ―ッとしていた私に、久しぶりに、朱翔に話し掛けられて、ビックリして、変な声が出てしまった






うぅ…恥ずかし過ぎるでしょ…。
ビックリしたからって、あんなこと言うなんて…。
あ―、もう穴があったら、入りたい…。




今、絶対顔紅い…。






「でも、そんな所も可愛い。」






「なっ……!!うるさいっ……。」






「もっとよく見せて?」






フイッ、とそっぽを向いたけど、クイッ、と顔を朱翔の方へ向けさせられる。













「っ……。」






「その顔………すげぇそそられる。」






「はぁっ…!?んっ……」






朱翔が、いきなりキスをしてくる。
とても優しくて、でも、少し荒々しさのあるキス。






酸素が足りなくて、空気を吸おうと口を開けたら、待ってましたとでも言うように、舌を入れてくる朱翔。






「俺が、お前の全部を受け止めてやるよ…。」






「ふぁっ……んっ………」






逃げても、逃げても、追いかけてくる朱翔の舌。
何も考えられなくなる……。






「大丈夫、優しくするから……。」






そう言って、倒れかけそうになる私を優しく、私の腰に手を掛け、抱き止めて、ゆっくりと押し倒す朱翔。











「いやぁっ………。」






怖い…いやっ……。
するなら、好きな人とがいいっ……。






抵抗をするが、朱翔はやめてくれない。






「紗姫…俺なら、紗姫を幸せにする。紫月みたいに、お前を一人にはしない…!」






「ッ……!」






「だから………俺と付き合ってくれ…。」








朱翔…何で、そんな苦しそうな顔をするの?
どうして………?
私は、前を向いて、朱翔に、問いかけた。





「…もし、朱翔と付き合ったら、紫月を忘れられる…?


前から、ずっと塞いでた苦しい想いも、消えて無くなる…?」






「俺が、忘れさせてやる。頭の中は、紫月じゃなくて、俺だけしか、考えられなくなるようにしてやる。」






「朱翔…まだ、紫月のことを忘れられないかもしれない。それに……抱かれるのも、まだ、怖いから、無理…。それでもいいなら――


















私と付き合ってくれる…?」






私がそういったら、朱翔は、優しく笑って、私にキスした。






「……あぁ、紗姫が、ちゃんと………俺のことを好きになった時に、抱く。約束する。」






「っ……ありがとう…。」











私は、この時は、この決断がいいと思ってた。
だけど、それを間違った決断をしたというのは、もう少し後の話。







――紫月視点――

違う。あれは、きっと何かの間違いだ。

まさか、紗姫が、朱翔と――










キスをするなんて。





「違う違う違うッ!!!
紗姫が、朱翔とキスする筈が……無いッ――。
俺を置いて、紗姫が他の誰かと一緒にいるなんて―――」





《本当に…?
本当に、紗姫が俺達の約束を破らないと決まってるのか……?》





俺の心の奥底で、小さな闇の気持ちが、俺に問いかける。





【絶対に、紗姫が約束を破るわけがない。】





《じゃあ、何故、他の男とキスをしていた?》





【それは、ちょっとした事故で――】





《事故で、あんなキスをすることはない。
確率は0.1%だ。後の、99.9%とは――





何かしらの関係があるからだ。
お前は、その小さな確率の0.1%に賭けるのか?
自ら目撃をしといてか?
オレなら、絶対に何かしらの関係があると思うがな。》





【紗姫と朱翔が―――





恋人なのか…?】






《その可能性が一番高いだろうな。
あそこまでのキスをしていたのだから。》





【紗姫が俺を捨てたのか…?】





《大丈夫だ、紫月。
いい考えがある。











コッチも、彼女を作ればいいんだ。
お前にもいるだろう…?
あの優しい明るい少女が。》





【緋里………か。
…そうだな、緋里ならきっと紗姫より、大切にしてくれる筈だ。】





《そうだ。
そのまま…………緋里に身を任せれば、何も恐れることなどないだろう。》





俺は今、決意をした。
これから、一生、紗姫を信じないことを。
そして―――





緋里と付き合いたいと。





この時、俺は、この決心が、自分の心の弱さだと、気づく筈もない。








――紗姫視点――


紫月の気持ちを封じ込めた翌日。
いつもより、家が暗く感じた。





「………おはよう」





「………はよ」





「「………」」





沈黙が続く。
沈黙を破るために、私は口を開こうとした。





「そうだ、俺、緋里と付き合うことになったから。」





「………そう。私も朱翔と付き合うことになったわ。」





「………解った。じゃ、待ち合わせしてるから先に行く。」





紫月がそう言ったので、コクリと私は頷いた。





「行ってらっしゃい。」





「………行ってきます。」





紫月が玄関のドアを開けた瞬間。





「紗姫ちゃん、迎えに来た―――
って、まだ紫月居たの?」





何故か、朱翔が来た。





「居ちゃ悪いか?」





「いやぁ?別に、居ても気にしない。
じゃ、お邪魔します。」





スタスタと朱翔は家に入り、私の目の前に来た。





「………?朱翔どうし――」





私が口を開いた瞬間、朱翔がいきなりキスしてきた。





「………紫月には渡さない。」





「んっ…ふっ……しゅう、とぉ……」





朱翔の舌が私の口をぐちゃぐちゃに掻き回す。
私の口から涎が出てくる。





「っ……紗姫……可愛い…」





「がっ、こう……に、行かないとっ……」




息が苦しくなる。あまりに荒々しいから。

私の膝がガクッと曲がり、朱翔に倒れ込んだ。
その時に、プツンと透明の糸が私達の間で切れた。





「ッ……行ってきます。」





「あっ…紫月……」





バタンと玄関の扉が閉まった。










「………そろそろ、行こっか」





「えー、もうちょっとキスしようよ〜」





「そんな気分じゃないから。」





紫月とますます距離が離れてる気がする。
でも、これで良かったんだよね。





朱翔なら、きっと愛してくれる。





「早く行こう!」





「えぇ、行ってきます。」





私は、ちょっとしたモヤモヤを心に残しながら、家を出た。











―――傷ついた心は、どんどん深くなっていく。







あれから、数ヶ月経った。
もう今は、紫月と目を合わすことすら、叶わなくなった。





紫月は毎日、朝帰りで授業も遅れてくる。
そして、授業に遅れてくる時も、昼食を食べている時も、帰る時も













緋里ちゃんがいつも隣にいる。
ニコニコと嬉しそうな笑顔で。





そんな二人を見るたびに、胸が痛くなる。
この痛みは、朱翔が居ても、消えない。





どうして……?
どうして、痛みが消えないの。
何で、紫月ばかり目で追うの?





解らない。
ねぇ、朱翔











―――この想いはいつになったら、消えてくれるの?






「………紗姫、どうした?」





「ねぇ、朱翔。










私は、いつになったら、紫月を忘れられるの?」





「ッ!!」





朱翔が悲しそうな顔で、私を見る。





やっぱり、こんな質問したら、困るよわね。





本当に私、最近どうかしてる。





「………ごめんなさい。
今のは、忘れていいから……っ!?」





朱翔の顔との距離がない。





私はキスをされていた。
だけど、朱翔は直ぐに唇を離し、私の右肩に顔を埋めた。





「………ごめん。
忘れさせるとか言っときながら、全然忘れさせれなくて。」





「………違う、朱翔のせいじゃない。
ずっと諦めの悪い私のせいなの。」





「………紗姫は、紫月をいつから好きなんだ?」





いきなり、びっくりする質問をしてきた。
私は、紫月をいつから好きなのか。
そんなの―――





「小6の卒業式から。」





「…………そんな前からか。」





「えぇ、そうよ。
本当に、諦めもつかないし、おまけにもっともっと好きになっていく。」





紫月のことを知れば知るほど、考えれば考えるほど、好きになっていく。
叶わない恋なのに、好きが膨らんで、だけど、不安は2倍膨らむ。





叶わない恋だと解っているのに、どうしても諦めれない。





恋は辛いことが、幸せより倍近くあるから、嫌になる。
恋なんて、したくなくなる。





なのに、どうして恋をしてしまうのかしら。





恋って、解らない。