「あ、後1人転校生がいるぞ〜!可愛いんだぞ〜。」
「「キタァァァァァ!」」
「はいはい、静かに。じゃあ、入ってきなさい。」
「はい。」
この声は………
「さ、自己紹介な。」
「あっ、はい。私は、桜井緋里です、宜しくお願いします!私の好きな人は…」
やっぱり…。来ちゃったんだ。
はぁ……。
「「好きな人は!?」」
嫌気がさしてる私を他所に、
男子が俺かな?とか、思いながら聞いているのが、よく解るくらいな顔をしている。
「………早乙女紫月君です♪」
「「はああああああああ?!」」
はい、男子の絶叫。
はぁ……、ライバル出現ですか。
私は、心の中でため息をついた。
「じゃあ、もう1人の早乙女の隣な。」
「はいっ!」
「「チッ……また、面倒くさいことになった…。」」
私と紫月がハモりながら、舌打ちをしている時に、朱翔と緋里は、ニヤニヤと妖しい笑みをしながら、喜んでいた。
・
昼休み。
屋上には、朱翔、緋里がいた。
「ねぇ、朱ちゃん。」
「何だよ、緋里。」
「あの二人、全然変わってないね?」
フフッ、と笑う緋里。
それにつられるように、ククッ、と笑う朱翔。
「だな。双子っていう関係に捕らわれすぎて、気持ちがすれ違いがありすぎ。そんな関係を気にしてちゃ、恋愛する資格ない。」
「それ、朱翔が言えること?」
「言えない………かもな。」
ハハッ、と掠れた笑みをする朱翔。
その態度に不満を持つ緋里。
「………何で、否定するの…。」
「ん、何か言ったか?」
「…………ううん、何でもない!さてと、今日から、始めようか。」
「大切なモノを解らせる為にな。」
二人は、クスッ、と笑みをし、屋上にあるちょっとした部屋へ作戦会議をしに、入っていった。
これから、大切なモノを気づかせる朱翔と緋里の計画の幕が開けた―――。
・
――朱翔視点――
昔、俺は、家族の1人を置き去りにした。
名前は、桜井彌丹。
俺の妹だ。
誰にでも、優しくて、自分の気持ちは後回しで、困っている人を放って置けず、自分より相手を優先して――
家族の誰よりも、家族を大切にし、信じていた。
例え、誰かが、嘘を付いたとしても。
そんな彌丹に甘えて、俺と緋里は、兄妹だったけれど、隠れて付き合っていた。
二人だけの秘密。
勿論、彌丹にも言ってない。
隠れてだけど、俺たちは小さな幸せを壊れないようにと、守っていた。
だけど、ある日。
それが、彌丹にバレてしまった。
いけないことだとしても、彌丹に真剣に、彌丹なら解ってくれると信じて、伝えた。
だけど、彌丹はこんなことを言った。
『私も、ずっと、お兄ちゃんを愛してた。』
と。
それを聞いたとき、俺は、何故か、あまり驚かなかった。
心の何処かで、気づいてたのかもしれない。
彌丹が、密かに俺を想っていることに。
だけど、俺は『緋里が好きだ』と、彌丹に伝えた。
・
すると、彌丹は、突然、壊れた笑い声を出し、包丁を取り出し、俺にそれを向けてきた。
グサッ、と左胸に、痛みが走る。
「朱翔お兄ちゃん!!!」
緋里の泣き叫ぶ声が、聞こえる。
すると、彌丹のこんな声が最後に聞こえた。
『貴女ノ幸セヲ私ガ奪ッテアゲル――。』
その声と共に、グサリ、と包丁の刺した音が、聞こえたと同時に、俺は、意識を手放した。
・
そのあと、俺と彌丹は、病院へ、運ばれた。
二人共、命に別状はなく、俺は、一ヶ月の入院で済んだが、彌丹は、三ヶ月の入院になった。
そして、俺と緋里は、入院した後に、駆け落ちしに、家を出ていった。
俺は、あの彌丹を、置き去りしてしまった。
誰にでも優しく、自分の気持ちを、ほとんど話さない彌丹を。
俺は、家を出ていったと同時に、後悔をした。
何故、彌丹を、もっとちゃんと考えてあげなかったのかと、そして、彌丹を置き去りにすれば、彌丹だけが悪人になるはずなのに、どうして、考えて行動しなかったのかと、今も、悔やみ続けている。
だから、俺は、紫月と紗姫には、俺のような、後悔をして欲しくない。
ずっと、親友だった二人には、例え、いけないことだとしても、後悔をしない自分たちは幸せの恋愛をして欲しいんだ。
・
「はぁ……、彌丹、あれから、大丈夫だと良いけどな…。」
「…………また、それ?もう誤ってしまったことを、後悔しても、もう遅いじゃない…。
だから、今とちゃんと向き合って、ね?」
「………………何だよ…それ…。」
だんだんと苛立ちが湧いてくる。
「えっ……?」
「ふざけるな!!!」
「っ!」
ビクッ、と緋里が、肩を揺らす。
目は、悲しみで満ちた目をしている。
「何だよ、もう彌丹は、家族じゃないって言い方して!
今は離れてるけど、家族なのには、変わりはない。そうだろ!?」
「……………だよ。」
「っ………?」
緋里が、肩を震わせながら、服を手で、握りしめている。
「朱ちゃんだよ!!
『駆け落ちしよう。』って言ったのは!
私が言ったみたいな風に言って!!
あの時、一番ふざけてて、彌丹を家族じゃないと思ってたのは、朱ちゃんじゃないの?!」
「!!!」
「私だって、家族と離れるのは、辛かったよ!
でも、朱ちゃんと居たいと想ったから…
朱ちゃんとなら、二人だけでも生きていけると想ったから、
離れるのは辛いけど、駆け落ちしたのに…!」
緋里が正答だった。
確かにあの時、俺は、彌丹を家族と思ってなかった。
………悪人と思ってしまった。
俺と緋里を引き離す、最低な悪人だと。
一番の悪人は、俺なのに。
そして、緋里となら、二人でも生きていけると想ったのに……
あまりにも、後悔し過ぎて、大切なことを見失っていた。
緋里に対する、俺の気持ちを。
・
「ごめん……緋里。
俺、自分の気持ちを、見失ってた。」
「ううん……私も、ごめんなさい。
自分の気持ちを、ポンポン言っちゃって…。」
「いや、俺のせいだよ。」
涙ぐみながら、話す緋里に、一番悪いのは、俺だ。と自重する。
「朱ちゃんだけのせいじゃないよ!
私にだって、責任がある。」
「いや、全部俺のせいだ。」
「私のせいだよ!」
「俺のせいだ!」
二人で、自分のせいだ。と自重してると、何故か、笑いが込み上げてきた。
「ククッ…」
「クスッ…」
「俺たち、」
「私たち、」
「「何、やってるんだろっ。」」
二人でハモりながら、笑う。
楽しい。
こんな風に、緋里と笑いあえて。
そして、仲直りも出来て。
こんな日常が、何故か、愛しく感じる。
だけど――――
その間に、彌丹も居れば、もっと楽しかっただろう。とも、感じてしまう。
それでも、俺は、生きていく。
そして―――
いつか、彌丹を迎えにいく。
今度は、彌丹のことも考えて、家族みんなで、暮らすんだ。
・
――紗姫視点――
あれから、一週間が経った。
私は、最近は、毎日朱翔とばかり行動している。
紫月も、緋里ちゃんとばかり行動している。
朱翔と話すのは、とても楽しいんだけれど――
時々、不安になる。
紫月が、緋里ちゃんを好きになってしまうんじゃないか、もしかすると、恋人になってしまうんじゃないか……って。
紫月と緋里ちゃんは、たまに、手を繋いでるし、緋里ちゃんが紫月に抱きついても、紫月は拒まないし、いつも二人は、笑ってる。
それを見ると、ズキッ、と胸が痛む。
これは、私が、緋里ちゃんに嫉妬してる証拠。
何でも、思いきって出来る緋里ちゃんが、そして、それを受け入れられる緋里ちゃんが羨ましい。
でも、そんな裏に、紫月は、私に嫉妬してくれるのかな?って、思う自分もいる。
だけど、紫月は、私と朱翔がいても気にしない顔をする。
だから、やっぱり私に嫉妬してくれることはないんだって思う。
「はぁ……。」
授業なのに、ため息を着いてしまった。
「紗姫、元気がないな?どうしたんだ?」
朱翔が心配して、私に、質問してくる。
・
「別に……。」
「もしかして…紫月が好きなのに、紫月は全然気付いてくれなくて、しかも、緋里と仲良くしてるのに、嫉妬してる。とか?」
「!?」
小声で、ニヤッ、と妖しく微笑えみながら、私の気持ちを当ててくる朱翔。
何で、私の気持ちを……?
どうして気付いたのか、疑問で仕方がない。
「そんなに、辛いなら……俺が、忘れさせてやろうか?」
「なっ……!」
ガタンッ、と立ち上がる私。
「どうした、早乙女?」
「あっ…何でもありません。」
「そうか?ならいいが。」
また、椅子に座り直す。
朱翔の方ををチラッ、と見ると、ククッと笑っていた。
「誰のせいで、こんなことになったのよ。」
「さぁ?…………でも、さっき言ったことは本当だからな。考えとけよ。」
「っ!」
ニヤッ、と笑う朱翔は、妖艶という言葉にピッタリの雰囲気だった。
不覚にも、カッコいいと、想ってしまった。
・