――高校2年の春。
私たちは、2年へと進級した。
何故か、中学3年生、紫月は、いきなり彼女を作り出した。
それも、10人、20人……と、もう数えきれないほど。
家にも、あまり帰らなくなった。
私は、心配という感情で、心が覆い尽くされる。
紫月に
「何故、いきなり彼女を作り出したの?」
と聞いてみたけれど
「別に。」
としか言わない。
だんだん、私と紫月は、お互いに話さなくなっていった。
好きという気持ちが膨らむばかり。
ただ、その反面、不安も膨らむばかりだった。
・
そんなある日、私は、紫月を私の部屋に呼んだ。
「何?部屋に呼び出して。」
「ねぇ、何で、いきなり彼女作り始めたの?それも、何人も…。
何か…理由があるんでしょ…?」
「…………………別に。」
「もう、紫月は、忘れちゃったの…?
小6にした、約束……。」
だんだん、恐くなる。
紫月が、私を、拒絶して、嫌いになっているようで。
もう、紫月は、私に、心を開いてくれないようで。
寂しくなるの。
「……………覚えてるよ。」
「なら、何でなの…?
何で、私の傍に…ううん、心を開いてくれなくなったの…?」
「……心を閉ざした訳じゃない。ただ……」
「ただ……?」
・
「自分のブレーキが、止まらなくなるから。」
ボソッと言ったようで、よく聞こえない。
「えっ…、何…?」
「いや、みんなが、彼女作ってるから、焦って、さ。
見た目と性格を変えようと、思って、素っ気ない態度取っちゃって。
……ごめんな?紗姫。」
「そうだったの……良かった。
でも、紫月、今度からやめて?
嫌いになられたと思っちゃうから。」
「そんなことない!
嫌いになるなんて、あり得ない。」
久しぶりに、紫月の笑った顔を見る。
本当に良かった……嫌われなくて。
「はぁ……ちょっと、手強くなるな。」
「何?何か言った?」
「いや、何でもない。」
紫月とまた、わかり会えた。
そんな日になった。
・
「ねぇねぇ、紗姫知ってる?」
紫月と仲直りから、1週間の朝、学校へ、紫月と来たとたん、親友の牧野愛実から、そんな言葉をかけられた。
「何を?」
「今日から、この学校に、超金持ちの、兄妹が、来るんだって!」
「…………で?」
そんなことを言われるが、私は、素っ気ない態度を出す。
「も―、紗姫は、本当に男子に興味ないんだから!」
「興味ないんじゃなくて、一筋なの。」
「え?何か言った?」
「ううん、何でもないわ。」
愛実に、聞こえないように、思ったことを、ボソッと言った。
ガラッ
「ほら、席につけ―!ホームルーム始めるぞ―。」
「あっ、また後でねっ、紗姫。」
「ええ、また後で。」
転校生かぁ…どんな人かな…。
ま、私には、関係ないけど。
「よし、転校生を紹介するぞ―!しかも、イケメンなんだぞ―?ほら、入ってこい!」
「はい。」
ガラッと、ドアが開けられたとたん、私は、目をまるくさせた。
・
「桜井朱翔です。宜しく。好きな人は…」
「「好きな人は!?」」
女子は、とっても興味津々みたい。
周りを見てみると、私以外は、みんな身体を寄せて聞いている。
「……………早乙女紗姫。」
「「ええええええ!? 」」
女子はめちゃくちゃ驚いてる。
私は、至って冷静だ。
だって、幼馴染みだし。
「なら、早乙女のところがいいなっ。それでいいか?」
「はい、いいですよ。」
「……………はぁ。」
さて、今日から、憂鬱な日々になるなと私は、思っていた。
「……………最悪だ、ライバル出現かよ。」
もう1人、紫月も憂鬱な日々になる予感をしていた。
・
「あ、後1人転校生がいるぞ〜!可愛いんだぞ〜。」
「「キタァァァァァ!」」
「はいはい、静かに。じゃあ、入ってきなさい。」
「はい。」
この声は………
「さ、自己紹介な。」
「あっ、はい。私は、桜井緋里です、宜しくお願いします!私の好きな人は…」
やっぱり…。来ちゃったんだ。
はぁ……。
「「好きな人は!?」」
嫌気がさしてる私を他所に、
男子が俺かな?とか、思いながら聞いているのが、よく解るくらいな顔をしている。
「………早乙女紫月君です♪」
「「はああああああああ?!」」
はい、男子の絶叫。
はぁ……、ライバル出現ですか。
私は、心の中でため息をついた。
「じゃあ、もう1人の早乙女の隣な。」
「はいっ!」
「「チッ……また、面倒くさいことになった…。」」
私と紫月がハモりながら、舌打ちをしている時に、朱翔と緋里は、ニヤニヤと妖しい笑みをしながら、喜んでいた。
・
昼休み。
屋上には、朱翔、緋里がいた。
「ねぇ、朱ちゃん。」
「何だよ、緋里。」
「あの二人、全然変わってないね?」
フフッ、と笑う緋里。
それにつられるように、ククッ、と笑う朱翔。
「だな。双子っていう関係に捕らわれすぎて、気持ちがすれ違いがありすぎ。そんな関係を気にしてちゃ、恋愛する資格ない。」
「それ、朱翔が言えること?」
「言えない………かもな。」
ハハッ、と掠れた笑みをする朱翔。
その態度に不満を持つ緋里。
「………何で、否定するの…。」
「ん、何か言ったか?」
「…………ううん、何でもない!さてと、今日から、始めようか。」
「大切なモノを解らせる為にな。」
二人は、クスッ、と笑みをし、屋上にあるちょっとした部屋へ作戦会議をしに、入っていった。
これから、大切なモノを気づかせる朱翔と緋里の計画の幕が開けた―――。
・
――朱翔視点――
昔、俺は、家族の1人を置き去りにした。
名前は、桜井彌丹。
俺の妹だ。
誰にでも、優しくて、自分の気持ちは後回しで、困っている人を放って置けず、自分より相手を優先して――
家族の誰よりも、家族を大切にし、信じていた。
例え、誰かが、嘘を付いたとしても。
そんな彌丹に甘えて、俺と緋里は、兄妹だったけれど、隠れて付き合っていた。
二人だけの秘密。
勿論、彌丹にも言ってない。
隠れてだけど、俺たちは小さな幸せを壊れないようにと、守っていた。
だけど、ある日。
それが、彌丹にバレてしまった。
いけないことだとしても、彌丹に真剣に、彌丹なら解ってくれると信じて、伝えた。
だけど、彌丹はこんなことを言った。
『私も、ずっと、お兄ちゃんを愛してた。』
と。
それを聞いたとき、俺は、何故か、あまり驚かなかった。
心の何処かで、気づいてたのかもしれない。
彌丹が、密かに俺を想っていることに。
だけど、俺は『緋里が好きだ』と、彌丹に伝えた。
・
すると、彌丹は、突然、壊れた笑い声を出し、包丁を取り出し、俺にそれを向けてきた。
グサッ、と左胸に、痛みが走る。
「朱翔お兄ちゃん!!!」
緋里の泣き叫ぶ声が、聞こえる。
すると、彌丹のこんな声が最後に聞こえた。
『貴女ノ幸セヲ私ガ奪ッテアゲル――。』
その声と共に、グサリ、と包丁の刺した音が、聞こえたと同時に、俺は、意識を手放した。
・