「本日のアフタヌーンティーはレモングラス、ペパーミント、レモンバーム、カモミールのブレンドでございます」


「……どうも」



弾けるような満面の笑みでティーカップを示す熾悒。

対して乃碧は上機嫌とも不機嫌ともつかぬ表情でカップを受け取った。


あの後、熾悒は乃碧の少ない手荷物を掻っ攫うが如く受け取ってさっさと片付け、嬉々として彼女を部屋の奥へと案内した。

今は彼の“お疲れでしょうから”という強い勧めのもと、ティータイム中である。


「あ、美味しい……」


紅茶の爽やかな風味に誘われ、乃碧の口からそんな言葉が零れた。


「ありがとうございます。お口に合ったようで何よりです」





――ピーンポーン。


熾悒が言い終わるのと同時に、無機質な音が鳴り響いた。


(誰かしら? まだ知り合いの誰にもここに越してきたことは話していないのに……)


「私が出ます」


怪訝に思う乃碧に短く告げて熾悒はインターホンに向かう。

二、三言葉を交わすとすぐに受話器を置いた。

振り返った彼は先刻までと比べ、心なしか表情が固いように見える。


ややあって40~50代の男性が玄関から上がってきた。