気に入らない。

手紙の内容が気に入らない。

しかし、それ以上にこの手紙がこの部屋――つまり彼の私室の机に無造作に置かれていたことがさらに彼の神経を逆撫でにしていた。


通例、手紙は家人の手によって悧悒の元に届けられ、直接手渡される。

それがここに置かれているということは……。


手紙の差出人、神々廻(かがまえ)英仁が無断で屋敷に忍び込んだということに他ならない。

それで全く騒ぎになっていないということは、誰も彼の侵入に気付かなかったのだろう。


(昔から奴はそうだった。惚けた笑みを浮かべながら、悠々と誰よりも前を進んでいく……)


昔を思い出し、盛大に顔を顰める。


鉄仮面のような悧悒の表情をここまで崩すことができる者は、後にも先にも英仁ただ一人であろう。



(どいつもこいつも弛んでおるな……)



翌日、皇家の敷地内には終日悲鳴が轟いていたという。