「うむ……」
屋敷の最奥。
だだっ広く殺風景な部屋の隅。
小さな文机の前に腰を下ろした着物姿の男が一人、唸っていた。
この男の名は皇悧悒(すめらぎ りおう)。
この屋敷、皇家の現当主である。
その名の通り、怜悧冷徹冷酷非道と名高く滅多に表情を崩さない彼だが、珍しく困惑していた。
「英仁(あやと)の奴め……」
震えるその手には、和風なこの屋敷にはおおよそ似つかわしくない、蝋印の施された手紙が一通。
そこには非常に身勝手な内容が無駄に長くつらつらと書き連ねてあった。
要約すると、こんなところだろう。
【暫く妻と二人で海外に出る。
娘は熾悒(しおう)君の所へ預けた。
後は頼む。 by英仁】
(何だ、このふざけた手紙は!?)
悧悒は鉄壁の理性で口から出掛かったその言葉をどうにか心の中に押し留めた。
今にもその手で手紙を握り潰しそうではあるが……。