「か、かぎ......」





自分でも驚くくらい細い声が出た。









でも、少し歩き出していた相澤くんの耳にも届いてたみたいで、その足を止めることができた。









相澤くんはゆっくり顔をこっちに向けた。







「かぎ?」






きょとんとした顔で聞き返してきた。








あたしはコクンと頷いた。








「鍵が、ね.....無かったの。そ、れで、お母さん家に、いな、くて........だから、入れなくて、それで、その、勉強、とか、してようと、思って.......戻ってきた.........。」







うわあ。何言ってんの自分。

つまりすぎて何言ってんのかわかんないし。









でも今はこれが精一杯だ。







相澤くんは少しの間驚いたような顔をしていたけど、すぐにぷっと笑い出した。







「あははっ。そうだったんだ!あはははは!」






彼は楽しそうにケタケタ笑った。






そんなに面白いかな。





あたしは不思議に思った。






「別に、そんなに笑う話じゃないけど。」






さっきよりだいぶしっかりした声で出た言葉にあたしはしまったと思った。







なんであたしはトゲのある言葉しか言えないんだろう。





なんでもっと可愛く言えないんだろう。







あたしはただ、

なんで笑ってるの?
そんなに面白い?

って聞きたいだけなのに。






なんでわざわざ自分から突き放してしまうんだろう。







今まではそれでも平気だったのに、今はそれが本当に嫌で嫌で仕方がない。






思わず下を向いた。







「あははっ、ごめん、でも面白いからっ....ははっ」






彼はまだ笑いながらそう言った。







あたしは意外な言葉に驚いた。







相澤くんは......あたしから離れないでくれた。







あたしの言葉を受け止めてくれた。







それに、相澤くんの言葉はあたしが本当に言いたかった言葉の答えに当てはまっているから不思議だ。






もしかして、相澤くんには伝わるのかな。







相澤くんは、あたしが言いたいことをわかってくれる人なの?







あたしのことを、誤解しないでいてくれる人なの?






「わ、笑いすぎ。」






「ははは、ごめん....はあ、面白かったー。」








やっぱり、この人は太陽の光のような人だなあ。







あたしとは真逆の場所にいる人。








「ごめん。ほんとは面白いっていうより、嬉しかったんだ。」






相澤くんは言った。






「嬉しい?」






「そう。」






彼はそう言って、微笑んだ。







「どうして?」






「.......梶宮さんと話せたから。」







え?






あたしと.......?



顔が火照ったように熱くなるのがわかった。







そして、相澤くんもまた顔を赤くしていた。








彼は照れたようにへへっと笑いながら、

「俺何言ってんだろうね。」

と言った。







「..... ありがとう。そんなこと、言われたの初めて。」




「......うん。」




彼は優しく笑う。






「あたしも.......嬉しい。」




「........うん。」







こんなこと言ってくれる人が今までいただろうか。






初めて、人と接するのがこんなにも楽しくて嬉しいことだと知った。








初めて、また話したい、って思った。








こんな気持ちは、初めて。








「俺たち、終わってないんだよね?」







相澤くんが小さな声で言った。