泣く泣く既に形を成している人垣の後方に並ぶ。


ううっ、コンパスの差が憎い。

成長期に伸びなかった自分の身長が憎い。



「キャーー、陽向く~ん!!!!」


そうこうしている内に先輩が出てきたらしい。



「ん~、ん~……。やっぱり見えない……」


背伸びしても、顔を左右に動かしても先輩の姿をこの目で捉えることができなくて、がっくりと肩を落とす。


あの黒髪!!

人垣の向こう側に辛うじて見えるツヤツヤなあの黒髪!!

あれはきっと市橋先輩!!



嗚呼、先輩!!


颯爽と花道を通り抜けていく先輩の姿を想像し、うっとりする。


このところ連敗続きなせいか、私の脳はあらぬ光景を編集・再生し始めたらしい。


全く見えないのであれば想像もしにくい。

しかし、僅かばかり先輩の身体の一部が見えることによって、妄想は加速の一途を辿った。



この時、脳内ビジョンに夢中だった私は失念していた。


私のさらに後方に立つお姉様方が市橋先輩を見るため身を乗り出して来ていることを。

そしてそれによって自分が押し潰されそうになっていることを。