よく泣き、よく笑い、よく食べ、よく眠る子。

それがガキの頃から変わらない千紗の代名詞。



千紗とは家が隣同士で、部屋は真向かい。

親同士も仲がいい。


同い年なこともあって、物心がついた頃には既に一緒だった。


ちょっとしたことですぐ泣いて。

なんでそんなことでって思うくらい些細なことで笑う。


そんな千紗を俺は事あるごとにからかう。


あいつをからかって遊ぶのは俺の癖みたいなもの。


ついついやり過ぎて泣かせて。

失敗したな~ってその時は思うんだけど、数分後にはあいつケロッとしてるし。


からかわれるのが分かってるくせに、あいつは懲りずに俺の後をついてくる。


邪魔とか口では言いながら、人に懐かないペットを手懐けたみたいで、ちょっと嬉しかったりして。



けど最近、あいつには好きな奴ができたらしい。



市橋陽向。

一個上の学年の先輩で、よく分かんねーけど女にモテる。


いっつもむすーっとしてて、何考えてんのか分かんねー奴。

顔はまあ整ってる方だと思うけど。



「キャーー、陽向くん!!!!」


窓の外から聞こえる、作り物めいた嬌声に耳を塞ぎたくなる。


朝から女が五月蝿い。

何より、千紗が夢中になってんのが気に食わない。