「一緒に行って欲しい集まりがあるんだ」
「私がご一緒してもよろしいのかしら?」
「ぜひ……そのとき、このイヤリングをして欲しい。見せたい人がいるんだ」
「見せたい人?」
「会えばわかるよ」
それだけ言うと、彼は意味ありげに口元をほころばせ、詳しいことは
教えてくれなかった。
クリスマスディナーの別れ際、半ば強引に言い渡された次の約束だった。
宗一郎さんのあまりにも漠然とした誘いに首を傾げはしたが、その時は
興味の方が勝っており、目的も知らされないままパーティーへの同行を
承諾した。
クリスマスから約一ヶ月間、私たちが会うことはなかった。
年末年始といえば互いに何かと束縛される身でもあり、自由に身動きが
取れなかったこともあるが、どちらからもメールすらしなかった。
家族でもなく、ましてや恋人でもないのだから、年があらたまったからと
いって会わなければならない理由などどこにもない 。
少しだけ親しさが増した友人というのが、今の私たちの関係だった。
その少し親密になった友人と、今夜はこうして並んで歩いているのだが、
傍目にはどんな二人に見えるのだろう。
ふと可笑しくなり、小さく笑った拍子に肩が揺れた。
「思い出し笑い?」
「いえ、そうじゃないの。
私たち、みなさんの目にはどう映っているのかしらと思ったの」
「ここでそんなことを気にする必要はない。
誰も何も聞かない。そういう決まりなんだ」
「面白い決まりなのね。それで、今夜はどんな集まりなの?
そろそろ教えてくださらない?」
「狩野の婚約を祝う会だ、仲間内だけのね。だから気にしないでくれ」
気にしないでくれと言いながら、前に進もうとする彼の腕を引きとめると、
怪訝そうな宗一郎さんの顔が私を振り向いた。
「待って。婚約をお祝いする会だったなんて、もっと早くお聞きしていたら……
困ったわ」
「どうして困るんだ」
「どうしてって、私からも婚約のお祝いを差し上げたかったわ」
「気にする必要はないよ」
「あります。それでなくても狩野さんにはお世話になっているのよ。
ねぇ、どうして教えてくださらなかったの」
「だから、そんな気遣いはいらない会なんだ」
「そうはいきません」
宗一郎さんの呑気な顔が、私の言葉を軽く受け流す様子を見せたことで、
それがまた私の癇に障った。
男二人の間では遠慮などなく、堅苦しい祝いの品など必要ないのかもしれない。
けれど、私の方はそうはいかない。
きちんと形にして気持ちをあらわしたいのに、どうしてわかってもらえない
のだろうか。
急ぎ引き返し、せめて贈り物の手配をしたいと言う私に
「あとでもいいじゃないか」 と面倒くさそうな宗一郎さんの声に、
私は苛立っていた。