女達の胸元にはドレスに合わせた宝石が輝き、指も耳も必要以上の煌きで

飾られている。

取引先の会長の叙勲を祝う会だというのに、誰が主役かわからないような

女性達の華やかさに、私はうんざりしていた。

そう思いながらも、もしかしてとある期待を持ちながら先ほどから

ここに立っている。

今夜のようなパーティなら、彼も来ているのではないだろうかと会場内に

目を走らせたが、目指す相手の姿を確認することはできなかった。


彼に会ったのは三回だけ、そのうちの一回は記憶がないに等しい出会い。

二度目は道で呼びかけ彼に手を差し伸べ、三度目は彼に助けられた。


初めは他の男達と同じだろうと思った。

女を添え物としか見ず、着飾らせそばにおいておくか、そうでないときは

家で静かに男の帰りを待つ役目を与えるかだ。

彼がそうでないとはまだ言いきれないけれど、他の男達とは違う匂いを

含んでいる。

一瞬の判断で私を名前で呼び、あの場から連れ去ってくれた人。

近衛宗一郎のことを、私はまた思い出していた。





「木田さんに失礼があったそうね。どうして黙ってたの」


「失礼があったのは向こうです。あんな強引な方、こちらからお断りだわ」


「お断りするにも順序があります。

ご紹介くださった藤本様に申し訳ないでしょう」


「それでは、お母さまからよろしくお伝えしてください。

それでよろしいでしょう?」



私の言葉に母の眉は一層釣りあがり、聞くというより問いただすといった

口調になっていた。



「よくありません。男の方と一緒だったそうね。どなたなの」


「どうしてそれを…… 木田さんね! 男のクセにおしゃべりだわ。

そんな方、絶対に嫌ですから」


「そういう問題じゃありません。どなたとご一緒だったのかと

聞いているのよ」


「誰だっていいでしょう。お母さまが心配なさるような人じゃないわ」


「じゃぁ、おっしゃい」


「いやです」


「珠貴、待ちなさい」



母は相当怒っているようだ

私を珠貴と呼ぶときは、母の機嫌がかなり悪いとき。

これ以上の問答を避けるため、声を振り切るように背中を向けて部屋へと

歩き出した。