「ごめんなさい。言い過ぎました……

でも、珠貴さんには聞いて欲しかったんです。 

兄の本当の姿をわかって欲しかったから」


「ありがとう。お聞きして良かった……宗一郎さんは優しい方だもの。

お相手の方の立場をお考えになったのね」


「優しすぎるんです。それに、本当は繊細なのに絶対に弱みを見せないし、

素っ気無い言い方しかできなくて、誤解されることも多くて……

でも、珠貴さんはわかってくださっているみたい。

兄のこと、よろしくお願いします」


「こちらこそ、お願いします。静夏ちゃんと呼んでもいいかしら」



強張った顔が柔らかくなり、嬉しそうに頷いた。



「静夏ちゃんとこうしてお話できること、私も嬉しいの。

お兄さまは……宗一郎さんは、私にとって大事な方だから」



兄思いの彼女にとって、離れて暮らす宗一郎さんがよほど心配だったのだろう。    

手をそろえ律儀に頭を下げる静夏さんの目は、薄っすらと潤んでいた。




「宗一郎さんとお会いしたのは偶然だったのよ。

お兄さまが乗った車が故障して立ち往生していたところに、

私が通りかかったの。

いつもならそのまま通り過ぎるのに、気がついたら声をかけていたわ。

お困りでしょう、よろしければお送りしましょうかってね」


「珠貴さんのような方に声を掛けられて、兄も驚いたでしょうね」


「ところが、そうでもなかったわね。助かりますと嬉しそうにおっしゃって、

ためらいもなく私の車に乗ってきたのよ」


「まぁ、遠慮のないこと」
 

「ふふっ、そうなの」



私たちは顔を見合わせて、楽しい笑みを浮かべた。



「それから、何度もお会いする機会に恵まれて、お話するようになって、

食事に誘っていただいて、少しずつ距離が近づいていったわ。

宗一郎さんは、気持ちが楽に寄り添える方なの。でも、私たちは……」


「わかっています。珠貴さんがどんな立場の方か……でも、お願いです。

兄のそばにいてください。良い方法があるはずです。きっと」



真剣な目が諦めるなと訴えていた。



「叔父に同じことを言われたのよ」


「知弘さん……ですか」


「えぇ……」



彼女の口から、知弘さん と、叔父の名前が出てきたことが驚きだった。

私だけが許された呼び方だったはず。

どうして静夏さんが、こうも親しげに叔父の名前を口にしたのか。 

違和感をおぼえながら彼女への返事を探っていると、歩み寄る足音に二人とも

顔を上げた。