静夏さんは、今夜も蒔絵さんがデザインしたピアスを耳にしていたが、

彼女の肌の色との調和に違和感があった。

それは以前も感じたことで、もう少し肌の色が明るければピアスの色も

映えるのにと思いかけたところで あっ と声がでていた。



「どうしたんですか?」


「静夏さんのお写真を拝見していたのに、お目にかかったとき

妹さんだと気がつかなくて……

写真の頃とずいぶん雰囲気が変わられたのね」
     

「みんなわからないんですよ。さっきのお姉さま方も、

一瞬 誰? って顔でしたもの。 

向こうに行ってから自分を変えたんです」


「変えたの? 変えたくなるような何かがあったのかしら」


「そうですね。失恋して落ち込んだ気持ちを切り替えて、

いろんなことに挑戦したくて……

でも、結局彼女達が言っていたように辛くて逃げ出したんですけど」


「私にも同じようなことがあったわ……」



イタリア菓子カッサータを口に運ぶ手が止まり、静夏さんは驚きの目で私を

見つめた。

そうなのよ というように静夏さんに微笑むと、私は自分の皿のケーキに

ナイフを入れた。



「ここのカフェのお菓子たちは、あの頃、毎日食べた味と同じ……

好きだった人と別れたあと、イタリアにいたの。2年ほどね」


「日本にいたくないほど辛かった……ということですね」


「えぇ、そうね……体も心も疲れきって逃げるように行ったの。

両親の体面もあって、表向きは服飾の勉強ということになっているけれど」


「私と一緒。ふふっ……」



過去の恋愛を少し見せ合った私たちは、二人だけにわかる笑いを漏らすと、

それ以上は互いに追及せず、皿の美しい菓子を口に運ぶことに専念した。  


静夏さんの携帯が着信を告げた。

話しぶりから電話の相手は宗一郎さんのようで、珠貴さんとご一緒なのよと

伝えている。



「兄からでした。私が珠貴さんとご一緒していると言ったら、

すぐに行くから待ってろ、ですって」


「きっと、お近くにいらっしゃったのね……

このカフェを紹介してくださったのはお兄さまなのよ」


「まぁ、信じられないわ。あの兄が、こんなステキなカフェを知ってたなんて」


「平岡さんから教えていただいたんですって」


「やっぱり……兄に、こんなステキなカフェを女性に紹介するなんて

お洒落なこと、できないもの。 

仕事はそつなくこなすのに、ほかのことは全然……だからあんな誤解をされて」


「誤解って?」



食べ終わった皿を形良く脇に寄せるとエスプレッソを一口含み、静夏さんは

眉をひそめた。