来賓の挨拶が続く中、会場を埋め尽くした女性達の小声でかわされる

おしゃべりは絶えることはなく、耳障りな声に私は眉をひそめた。

ほんの一時も黙っていられないのか、ここで話さなくてもいいことを、

延々と話し続ける背後の二人を睨みつけようかと思ったいたところ、

来賓の長い話の終わりとともに拍手がおこり、私の苛立ちは矛先を失った。


私を苛立たせる原因は、女性達の話し声だけではないことはわかっていた。

宗一郎さんに会えない日が続き、私を不機嫌にさせている。 

互いに自由になる時間が折り合わず、それが会えない理由だったが、

時間なんてなんとでもなるものを、余計なプライドが邪魔をして、

本当は会いたくてたまらないのに 

”また ゆっくり会いましょう” などと、物分りのいい返事を彼にしていた。

彼のマンションも仮住まいのホテルも知っているのだから、深夜でも朝方でも 

”会いに来たわ……” と行けばいいのに、自分の気持ちを曝け出すことに

抵抗があり、一人ジレンマを抱えていたのだった。



堅苦しい挨拶が済むと、待っていたように会場はざわめきに包まれ、声の

トーンの高い女性達の声であふれ、これもまた私にとって好ましいとは

言えない響きだった。


いつ抜け出そうか……

すぐにでも退席したいところだが、お世話になった方への挨拶を終えなければ、

ここに来た意味がないというもの。

私は、三杯目のグラスを手に主役に近づく時を待っていた。

料理研究家であり、もてなしの和食を得意とする中島先生のもとには、多くの

良家の娘たちが教えを請うために集まってくる。

私も一時、その中の一人だったことがあり、料理はもちろん、もてなしの心と

人としての大事なものを学んだ。


ようやく人の波が落ち着き、先生にお目にかかって受賞のお祝いを述べると、

多くの中の生徒のひとりだったにもかかわらず私の事を覚えていてくださった。

私が受賞記念の品であるブローチの製作に関わったこともご存知で、形が大変

気に入っていますと喜んでくださり 

”あなたは枠にはまらないものを持っている方よ。

ご自分の世界を見つけられたようね。頑張りなさい”

と嬉しい言葉を添えてくださった。

このところ何かと言うと 「ご結婚は?」 と聞かれることの多い私にとって、

先生の言葉は励みになった。