会場からあふれ出た人々の波も徐々に消え、本館ロビーを過ぎる頃には人影も

まばらになっていた。

珠貴と並んで歩けるよう歩みを緩めた。

肩が触れ、指先が当たったのを合図に手を繋いだ。

指を絡めると手を握り返してくれたが、彼女はまだ黙っていた。


エレベーターの到着を知らせる音が聞こえ、手をほどき珠貴の腰に手を添え、

エレベーターの中へといざなった。

他に誰もいない二人だけの個室は息苦しく、何か言葉を掛けようと珠貴を

見ると、彼女も私を見ていた。

吸い込まれそうな目をしていた。

まばたきすら忘れたように私を見ていた目がスッと閉じられ、閉じられた

まぶたから雫がこぼれた。 

その瞬間、肩を引き寄せ唇を重ねていた。

軽くついばんでいたが、珠貴の腰を引寄せる頃には、我を忘れるように

唇を深くあわせていた。


エレベーターから私の部屋まで、かなりの距離がある。

そこをどうやって歩いたのか記憶は曖昧だった。

珠貴の体を支えながら唇を合わせ、もつれるように部屋までたどり着いた。


そこに言葉なく、肌に触れたいという欲望だけが存在していた。

服など必要ないというように互いのボタンをはずしていく。

気持ちが先走っているのか、服を脱がせるのがこれほどもどかしいと思った

ことはない。

肌が露わになり、恥ずかしそうな顔を見せた珠貴を抱き上げた。



ベッドに横たわる珠貴から、シャワーを……と声が聞こえたが、彼女への

キスをやめられずにいた。

唇はもとより首に肩に腕に、隙間なく唇をあてては吸い上げていく。

珠貴の声が痛みに反応しているとわかっていながら、彼女の肌を求め続けた。

理性など吹き飛んでいた。

立場や家も、それまで常に気にしてきた事柄すべてが頭の中から消えていた。

肌に触れたとき、珠貴の体がすでに潤っていたことも私の感情を煽る一因に

なっていた。


私が彼女を求めたように、彼女も私を欲していた。

体は言葉よりも正直だった。

触れた先から肌が色付き、滑り込んだ秘めやかな内部は私の指先をさらに

潤した。
 

弓なりにそった背をかかえ、胸元に顔を埋めた。

乳房から首へと唇を這わせ、耳元から唇へとたどり着く。

頬に手をあて唇を優しくなぞった。 

それまで荒い息が吐き出されていたが口が緩やかな吐息になり、狂おしく

寄せられた眉が、少しだけ柔らかな曲線を描いた。



「珠貴……」


「名前、呼んでくれたの久しぶりね」


「ふぅ……いまの俺には、君をいたわる余裕もない」



自分の不甲斐なさを告白して、許しを得たい気分だった。

珠貴の肌に夢中になるあまり、手加減もできず彼女に無理をさせた。


許しを請うように抱きしめると、珠貴の唇が私の首を刺激してきた。

首だけでなく、肩から背中にかけてくまなく唇をおいていく。

手が肌をすべり恍惚へと導く。

いつの間にか私も、彼女の手に同調していた。

すべてを忘れてもいいと思うほどの快感の中、宗……と呼ぶ声とともに

頂点に達した。