北陸の出張を終えたその足で、友人宅を訪ねた。



「本当にお忙しそうですね。それなのにお時間を頂いて」


「いいえ、それにこれはお仕事ですもの。

嬉しいわぁ、そんなに気に入ってくださったなんて」


「義母もそうだけど、大叔母も義妹も、自分のためにデザインされたことに

感激したんですって。

大叔母などね、もうあちこちに宣伝しているのよ。

またお願いに上がらなくてはならないかも」


「まぁ、それはありがとうございます。お待ちしておりますわ」



紫子さんから、お義母さまに贈ったお品のことで相談があると連絡を頂いた。

主人は仕事で帰りが遅いので、ゆっくりしていってくださいねと言われ、 

これまで何度もお邪魔したリビングに落ち着いた。



「義母のスカーフ留め、お任せしますということだったの。よろしいかしら」


「えぇ、デザイナーも喜ぶでしょう」


「その方、平岡さんがお付き合いしていらっしゃる方ですって?  

お家の反対もあると伺っていたけれど、平岡さんもご心痛でしょう」


「そうみたい。彼女、お仕事も熱心でとても真面目な女性なのよ。

でも平岡さんのお家とは……

恋愛の障害が家柄なんて、可哀想で……」



蒔絵さんと平岡さんの話を、自分のことのように重ねていた。

家のために思い通りにならないなんて、今どきそんなこと……と言いかけて

口をつぐんだ。

言葉が途切れてしまった私へ、紫子さんは思いがけない言葉を向けた。



「そうだわ。珠貴さん、聞きましたよ。お決まりになられたって」


「えっ? なにが」


「お相手に決まってるじゃありませんか。

お相手の方がどうしてもっておっしゃったそうですね。 

ご縁があったのね」


「ゆかちゃん、ちょっと待って、私にはそんな話はないわ。

どこでお聞きになられたの?」


「義母からよ。珠貴さんのお母さまが、そうおっしゃったって。

嬉しそうにしてらしたって」


「結婚が決まったのは従姉妹だけど……」



紫子さんは自分の勘違いに、ごめんなさいと謝り続けた。



「小さな行き違いが誤解を生んで、去年婚約を解消して、

それはそれは大変だったの。

お相手の方からもう一度お話を頂いて、母が間に入って、なんとかおさめたのよ。

きっとそのことね、まだ結納も済ませていないのに、 

そうやって口にしてしまうなんて、よほど嬉しかったんでしょう」


「そうだったの……そうよね、もし珠貴さんのことなら、

そう簡単におっしゃるはずないもの。 

でもいいわね、ご結婚がお決まりになって。義兄はどうするのかしら……」


「お義兄さまも、確か……」


「えぇ、そのときのお相手の方、もうすぐ結婚なさるのよ。

義兄にも早くいい方が現れるといいのだけれど、こればかりは……」



紫子さんの話を聞きながら、この間宗一郎さんと一緒にマンションにいた

女性は誰なのだろうとふたたび疑問が沸き起こってきた。

親しげな様子から、昨日今日交際を始めた相手には見えなかった。

それとも、紫子さんも知らない人がいるのだろうか……