「アナタ、宗さん、潤さん、ありがとうございます。

紫子さん、珠貴さんによろしくお伝えしてね。
 
それからお願いがあるの。

ブローチと同じデザインでスカーフ留めを作っていただきたいの。

そう聞いていただけないかしら」


「まぁ、それはステキだわ。さっそくお聞きしてみますね。

彼女、きっと喜ぶと思います。 

珠貴さんの発案で始めた新事業ですから、張り切っていらっしゃるもの」


「須藤さまも、素晴らしい後継者がいらっしゃってお幸せね。

珠貴さんのお相手も近々決まりそうなんですって。 

お母さまが嬉しそうにしてらしたわ」


「本当ですの? つい先日もお会いしたのに、

そんなこと何もおっしゃらないから……」


「一度立ち消えになったお話しみたい。

でも、お相手の方が是非にとおっしゃったそうよ。

本当に良かったこと……

あら、おしゃべりがすぎたみたい。ごめんなさいね」



またも静夏の肘が私を突いたが、そ知らぬふりで立ち上がった。

特に必要でもない氷を取ろうとバーカウンター下の冷蔵庫に手を伸ばすと、

「こちらに貸して」 と紫子の声がした。

私からアイスペールを受け取り、氷をつぎ足しながら紫子の言葉が続いた。



「昨日、お品物は宗一郎さんにお届けしますと、珠貴さんから連絡を頂いたの。 

お二人はお知り合いだったのね」


「知り合いというか、ちょっとした繋がりがあってね。

アクセサリーのデザイナーが平岡の彼女なんだ」


「そうだったの。では、平岡さんを通して宗一郎に渡してくださったのね。 

どうして私ではなく宗一郎さんに届いたのか、不思議に思っていたものだから」


「平岡さんって、宗の秘書の方でしょう? 

ふぅん、人って意外なところでつながっているんだ」



途中から会話に入ってきた静夏が、意味ありげに頷き私を見た。

睨みつけると 「そんな顔しないでよ」 と口を尖らせドリンクをもって

立ち去った。

釘を刺したにも関わらず、静夏の口がいつ珠貴のことをしゃべり出すかと

思うと落ち着かない。

ソファに座り、不機嫌そうにグラスを乱暴にかき混ぜている妹に声をかけ、

バルコニーへと目配せした。