家族全員が集まったのは、いつ以来だっただろう。 

留守がちな潤一郎が顔を見せたのも久しぶりだったが、父と私が同席するのも

まれだった。

みんながお顔をそろえたのは何年ぶりかしらと、母は嬉しそうだった。



「お義母さま、おめでとうございます」


「まぁ、ありがとう。開けてもいいかしら」


「開けてみてよ、僕らもまだ見てないんだ」



紫子から受け取った包みを嬉しそうに広げる顔は、まるでクリスマス

プレゼントを手にした少女のようだ。

自分の母親ながら、いつまでも変わらぬ若々しさがあるものだと感心して

いると、箱を開けた顔が一層華やいだ。



「抑えた色なのに不思議な輝きがあって……なんて綺麗なの。

紫子さんが選んでくださったの?」


「学生時代のお友達が、宝飾関係のお仕事をしているものですから、

その方にお願いして。 

お義母さまもご存知でしたわね。

須藤珠貴さん、彼女、自社ブランドを立ち上げたんですよ」


「須藤さまのお嬢さまの?」


「えぇ、珠貴さんがお義母さまの雰囲気をデザイナーの方にお伝えして、 

そのイメージから作っていただいた一点物ですの」


「まぁ、私だけのブローチなのね。感激だわ」



「詳しいイメージを彼女に伝えたのは宗でしょう。憎いことをするわね」

隣りで肘を突きながら静夏が顔を寄せ、こんなことをささやいた。

コイツの口を塞いでやりたいと思ったがそういうわけにもいかず、黙って

妹の足を膝で小突いた。

小憎たらしい顔がこっちを睨んだが その顔は 続いて発せられた紫子の

言葉で驚きに変わっていた



「こちらは叔母さまに。どうぞ」


「あら、私にもくださるの? 嬉しいわ」


「これは静夏ちゃんへ。もうすぐ誕生日でしょう。

ピアスよ、どちらも同じデザイナーの方のデザインなの。

お二人のイメージをお伝えして作っていただきましたので、

きっと喜んでいただけると思いますわ」



大叔母も静夏も急ぎ包みを開き、箱の中の自分だけのアクセサリーに感嘆の

声をあげた。

先ほどまで私に向けられていた静夏の意地悪な視線が、これを境に優しい

眼差しに変わったのだから女と言うのは単純なものだ。

叔母も静夏もさっそく耳へ飾り、互いに似合うわステキよと褒めあっている。 

機嫌はすこぶる良いようだ。

母などブローチの似合う服を選び出し、出かける先まで思案するといった

念の入れようで、一気にテンションの上がった女達を眺め、男達の顔は

ヤレヤレといった表情だった。