“またね。”

それは、あなたと私の合言葉。

あなたの全てを愛してた。絶対に忘れないよ。



『また、会えるよね……?』



叶わないとわかっていても

諦められなかった。

結ばれないとわかっていても

離れられなかった。

どんなことをしてでも

私だけを見てほしかった。



ずっとずっと
傍に居たかった。

ずっとずっと
一緒に居たかった。



“またね”



次に繋がるその言葉を

ずっと聞かせてほしかった。

あなたさえいてくれたら

他に何もいらなかった。



感動的な純愛物語なんかじゃない。

決して綺麗じゃないけれど

誇れるような恋じゃないけれど



私にとって……一世一代の恋でした。



季節は夏。

受験シーズン真っ只中。

周りは初めて迎える受験に向けて、期待と不安を抱えながら猛勉強中だというのに、菜摘には危機感なんて全くなかった。

もう受験する高校は決めてるから。市内で1番レベルの低い、私立高校。

願書さえ提出していれば、落ちる人はまずいないという噂だ。

実際、ロクに学校にきてなかった先輩たちもみんな受かってる。



「髪、黒くしなよ。もうすぐ受験じゃん」

昼休み。いつも行動を共にする伊織が、色素の薄いショートカットの髪を丁寧にとかしながら言った。

菜摘より10センチも背の高い伊織を見上げ、受験生とは思えないほどに明るく染まった髪を自分で少しつまんでみる。

生徒会長らしい注意に、目を剃らした。



「うん。願書の写真撮る時に黒スプレーする」

「バカ。確かに名前書けば入れるとこだけどさあ。なっつにはあんな高校似合わないよ」

菜摘が行こうとしてる私立高校は、ヤンキーとギャルの溜まり場だ。悲惨な成績や内申のおかげで行ける高校がない人や、受験に失敗した人々が集まる場所。

確かに菜摘はヤンキーでもギャルでもないけれど、“女子高生”になれるならなんでもいい。勉強が嫌いな菜摘にとって、その高校はもってこいだった。

「なっつはやればできる子なんだから。気持ちの問題じゃん」

気持ちの問題、ね。

丁寧にフルーツ系のリップを塗る伊織は、学年一の優等生だ。本当は勉強が嫌いなことも知ってるけど、夢に向かってひた向きに走る姿は尊敬する。

「…うん。まあ、気が向いたらね」

その点、菜摘はと言うと

生意気で縛られることを嫌う性格が災いしてか、学年一の問題児、なんて言われる始末。

かといって、別に不良でもなんでもない。ここは田舎の平凡な中学校で、それなりにある校則を守ってないだけ。

好きな格好をしてたら怒られて、それでも直さない菜摘を先生たちは“問題児”だと言う。それだけの話だ。



廊下へ出てもその話は続いた。

口うるさい伊織に反撃開始しようとしたところで、

「そうだよ。私立行くなんて話違うじゃん」

と、教室のドアの前に立っていた隆志が言った。

男にしては背が低くて可愛らしい、菜摘の幼なじみ。




どの辺から聞いてたんだこいつ。

口には出さず、窓側の席へ移動する。最後列に腰を下ろすと、隆志が続けた。

「一緒の高校行くって言ったじゃん」

小学校からずっと一緒にいた隆志。

高校も同じところに行こうと約束したのは、確か2年生の時だった。

「でもさ、菜摘入れるかわかんないじゃん」

「わかんないから頑張るんだよ」

「そうだよ!あたし勉強教えるし、頑張ろうよ」

ふたりに圧倒されて少し怯む。どうしてこんなに張り切ってるのか。



…菜摘は、前向きになんてなれないから

菜摘にとって、2人は少し眩しい存在だった。



「頑張ろうね」



3人はいつも一緒にいたのに

いつまでも意地張って素直になれない子供なのは、菜摘だけなのかな。



隆志なんてつい最近まで菜摘より小さかったのに、今はもう見上げるくらいになっていて

なんだか少し取り残された気分になる。



「来月に体験入学あるし、一緒に行くぞ」

「うん。気が向いたらね」

「絶対向かないでしょ!いいから行きなよっ。隆志、ちゃんと連れてってね」

ふたりの勢いに負け、渋々頷いた。だって頷くまで解放してくれなさそうなんだもん。

「言っとくけどさ、約束は破るためにあるもんだよ」

「まあたそんなこと言うー」

こんなひねくれたことを言いつつも、ふたりとの約束は破れない。

絶対に、何があっても失いたくない存在だから。



この時、ふたりがいなかったら……

きっと、あなたに出会うことはなかったね。



9月下旬。

まだ暑さが残っていた上旬とは打って変わって、昼間でも少し肌寒い。

約束通り、隆志に連れられて体験入学へ参加した。



今日は土曜日。休日に早起きなんて、学年一の遅刻魔を誇る菜摘にとってはものすごく苦痛だ。

「ねぇ隆志、かっこいい人いるかなあ?」

「主旨が違うだろ。男漁りに行くんじゃないんだから」

男漁りとまではいかないけど、休みの日まで勉強なんかしたくない。

とにかく面倒臭くてしょうがなかった菜摘が見つけた、唯一楽しめる方法。

“かっこいい人を探す”

「いたとしても菜摘なんか相手にされないって」

「うっさいな、どうせブスですよ。でもかっこいい彼氏ほしい!」

「ブスなんて言ってないだろ。恥ずかしいから大声出さないでくださいよ」

隆志がこぐ自転車の荷台に乗り、呆れる隆志や、じろじろ見てくる通行人を無視しながらはしゃぐ。



「いい人いたらいいな…」



隆志の背中に額を当て、そっと呟いた。