突然、背後から抱きしめられた。


「どうした、杏花」


「………」


杏花は無言のまま、更にきつく抱きついて来る。


俺はそんな彼女の腕をそっと解き、身体の向きを反転させた。


そんな俺の行動を予想したかのように


彼女は俯き、頭を俺に預けるようにして抱きついて来た。


「おい、………杏花?」


彼女の顔を覗き込もうとすると、


「……らっ、…………………ってね」


「えっ?」


耳を澄ましていても聞き逃してしまうほど弱々しい声。


こんな風に言葉にする時は、いつだって………。


「杏花」


彼女の耳元に優しい声音で囁けば、


ゆっくりと顔を持ち上げ、俺の瞳を真っ直ぐ見つめて。


「要がいないと寝れないからっ、出来るだけ……早く帰って来てね」


やっぱり俺にご褒美の予告をしてくれるんだ。


瞳を潤ませ、必死に懇願する彼女をきつく抱き締めて。


「あぁ、超特急で終わりにして来るから、もう少しだけ待ってて。……な?」


「…………うん」


安心させたくて口にした言葉でさえ、


彼女の心の不安を拭うには到底足りない事は重々承知している。


だから、俺は彼女のセーターの襟元を少し強引に引き下げて。