−卒業式当日−

穏やかな風のない日だった。

春の柔らかな日差しが、体育館の天窓から差し込んでいる…

「…それでは卒業生の退場です、皆さん拍手でお願いします」

司会者がそう言うと、一組から順に一礼をして、在校生の間をブラスバンドの演奏に送られながら、体育館を退場して行った。

涙ぐむ者もいたし、外へ出ると大爆笑している生徒もいて、様々だった…

「それではF組の退場です…」

千歳は最後の方の退場だった。

曲が終わり次の曲が奏でられた時、千歳は耳を疑った。

大急ぎでブラスバンドの方に目をやると、花園が…先に退場したはずの花園が指揮を取り、そこに立っていた。

″え?!?″

「まさか…この曲ー」

そのまさかの曲は、千歳のソロで始まっていた。

バンドの横を通る時、良く見ると、卒業生のはずの桂木まで紛れ込んで、演奏しているではないか…

″…やられた…″

まさかこのために弾かされていたとは、思いもしなかったのだ。



体育館を出ると、千歳が二人を待ち構えていた。       

「どうだった?千歳、感想はー?」

花園が手をふりながら、桂木と一緒に千歳の方に歩いて来た。

「…泣かされたわ…」

千歳は泣き笑いのまま、二人の腕に抱き着いた。       

「えへへ…やったね…」

花園と桂木は顔を見合わせると、満足そうに笑った。