鳴海は歩調を早め、階段を上がっていた。

放課後、開け放しにされた窓から、5月の爽やかな風が入ってくる…

暑くも寒くもない、キレイに晴れた日だった。



「…さえちゃん」

目的地にたどり着くと、鳴海は声をかけた。

屋上の扉を開けると、初夏の風と校内の喧騒が後ろへ通り過ぎて行く…

景色を見る間もなく、鳴海は辺りを見渡した。

「お兄ちゃん、ここ、ここ♪」

頭上から楽しげな声が降ってきた。

屋上の給水塔からフワリと降りて来たさえを見て、鳴海は一息ついた。

「…さえちゃん、久しぶり…最近見なかったけど?」

鳴海は後ろ手に鍵をかけ、すぐ脇の壁に寄りかかると腰を下ろした。

「うん♪あのね、ここんとこ、あの変なお兄ちゃんのところに行ってたの」

ぴょんぴょんとはねながら、さえも鳴海の隣に座った。

「変な?ああ、花園ね…」

なるほどと、鳴海は心の中で呟いた…