涙目になりながらそう訴えた私に男は、
「もう、無理なんだ。…ごめん」
涙を見たくない。と言いたげに目を伏せながら、最後の一言はつぶやくように言った。
その言葉を聞いて、私はさきほどまで強く握っていた服から手を離した。
離した、というよりは力が入らなくなって、するりと腕が落ちた。
そう言った方が的確かもしれない。
別れたくない。
もう一度出そうになる言葉を飲み込み、涙を拭く。
「…そっか、わかった。今まで、ありがとう」
私はこの日のために買った新しいコートに包まれた身を翻し、「元彼氏」となった男の前から
立ち去った。
最後の別れくらい、少しわがままに「別れたくない」ってだだをこねさせてほしい。
それでもだめなら、潔くさよならを告げる。
いつまでもずるずるしてるのは、カッコ悪いから。