「いや、なんでも・・・。ただ・・・。」
「ただ?」
「俺の名前、女みたいって言わなかったやつ初めてだから・・・。」
え、そんなこと??
「なんで?莉央ってなんか、かっこいいじゃん。あってるよ?君に。」
あたしは笑いながら、莉央の隣に座った。
「かっこいいって、ありがとうございます。」
彼はあたしに向かって微笑んだ。
・・・似てる。
あいつが微笑むときのくしゃっとした顔、それと、頬に飾られている二つのえくぼ。
それから何度か彼を見ることはあったが、大して気には留めなかった。
「俺の彼女になってください。」
そう言われるまでは・・・。
「あたし、好きな人いるよ?」
心はあいつだけ。揺らぐことのない、素直な気持ち。
「いつか、きっと振り向かせるから。」
彼はそういうと、また微笑んだ。
「1ヶ月だけ俺だけを見ていてくれませんか?」
・・・やっぱり、似てる。
思わず、「はい。」と答えてしまった。
せめてあいつがあの子の彼氏でいる間だけ、あたしは莉央の彼女でいようと思った。
窓際の席から外を見るあいつの後ろ姿を、あたしはじっと気付かれないように見ている。
自分の思いを隠し通せるまで、あたしはタダの幼なじみでいようと思った――。
「美玖ーーー!!見たよっ。二人で何叫んでたの?」
教室に入ると、朝からハイテンションな瑠奈が駆け寄ってきた。
「え、なんでもない。」
・・・あれは言いたくないな。
「えーー、ケチっ!」
瑠奈は口を少し尖らせた。
「そういえば、チケットありがとね。てか、真ん中だったじゃん!!よかったの?ミツくんと行かなくて・・・。」
あたしはうつむいた瑠奈の目を覗き込んだ。
・・・もしかして喧嘩でもしたのかな?だとしたら・・・あたしのせい!?
「じゃーん!!どう?これ。」
いきなり顔を上げた瑠奈の右手の薬指にはハートのかわいい指輪が付いていた。
「え、どうしたの?まさか・・・。」
「うん。1周年記念に買ってもらった☆」
うっそぉおおーーーー!!
さ、さすがミツくん。やるねぇ・・・。
幸せそうな瑠奈の顔を見ていると、こっちまでなんだか幸せになったような気がする。
「はぁ・・・。いいなぁ、ペアリングとか。」
今は英語の授業中。
涼しい秋の風は集中力UPにはいいのかもしれないけど、今のあたしには意味がない。むしろ逆効果。
「何したんだよ、ため息なんかついて。」
隣の席の莉央に話しかけられた。
「ん・・・?なんでもない。」
あたしは窓から見える、グランドを覗き込んだ。
「今度は彼氏さんでも探してるわけ?」
「まぁね。」
莉央は、どこか慶吾さんに似ている・・・のかもしれない。きっと、あたしの勘違い。
そのままあたしは慶吾さんを探した。莉央も、グランドを見ている。
・・・あ、慶吾さん。
彼は他の男子と体育をサボっている。そこに一人の女子が来た。
「行くよっ!!」
おそらくそう言ったんだろう。彼女は慶吾さんの腕を掴んで、どこかへ行ってしまった。
だれ・・・あの人。
あの流れるような髪の毛・・どこかで見たことがある・・・。
「思い出せない・・。」
そう呟いた。
ふと、あたしは莉央の存在を思い出し、隣を見た。
「桜・・・。」
彼の目はとても愛しいものを見るような、でもどこか切なくて、悲しい・・・。
これだ!!慶吾さんと似ているのは。
「ねぇ・・・桜って??」
あたしは恐る恐る聞いてみた。
「俺の彼女・・・多分。」
多分って・・・あるのかな。
「なんで、多分なの??」
「あいつ、他に好きなやついるから・・・。」
そういうとまた、莉央はグランドを見た。彼女の姿はもうないのに。
何か、胸騒ぎがする。
一筋の風が流れる。