*****


「おかあさんっ」

突然響いた声にわたしは顔を上げました。

正面にいる男性に目を向けると、彼は振り返った格好のまま固まっています。

「…ル、奈央さん…?」

呼び掛けてみますが、彼は聞こえてはいないらしくある一点を凝視したまま微動だにしません。

「…く、……にかわい…」

彼の見詰める方向から何やら話声が聞こえ、奈央さんは狼狽したように此方を向きました。

「…来た…」

わたしに聞こえるぐらいの声で言うと奈央さんは隣に座る花耶さんにそっと耳打ちします。
何を言っているかはわかりませんでしたが、その花耶さんの表情からとても深刻な話なのだと感じます。

「…麗菓ちゃん、今麗奈ちゃんがこっちに向かってる」

「え…っ」

麗奈が、そう告げるより早く






「…あ、ルイ…じゃない、奈央と」







「…麗菓ちゃん、だったかしら?」


聞き慣れた声と大人びた女性の声がシンクロします。




「久しぶりっ、麗菓さん!」




数時間前にさよならも言わないで別れた少女、麗奈は見知らぬ女性に抱かれた格好で姿を見せました。