「いえいえ、犬山の親父さんから預かってる大切なお嬢さんですから」

 丁寧に言いながら風呂場まで案内してくれて、「それじゃ、ごゆっくり。失礼します」

 次郎は電話を取り出し、誰かに電話をしながら来た道を戻って行った。

 はぁ、なんかやりにくいなぁ。

 このシステムに慣れない葵はどう接していいのかその対応に困っていた。

「でもま、一ヶ月だもんね」

 よし! と気合いを入れ、脱衣所に荷物を置いた。

 しかし、

 着ていたワンピースを脱いで下着だけになった葵は、ふと疑問に思うことがあった。

「一ヶ月のうちに犯人が見つかったら、私はここにはいられないんだよねってことは、霧吹さんともお別れなわけだよねぇ」

 ちょっとズキンと心が痛むものの、あんな下品な人とサヨナラできるんだ。

 と、考え直すことにした。

 あんな品の無い人のことがなんでこんなに気になるのか、恋愛経験の無い葵にはよく分からない問題だ。

 たぶん、男の人と接するということが初めてに近いから、気になってしまうんだろう。

 うん、たぶんきっとそうだ。じゃなかったらあんな変な人を好きになるわけが無い。

 顔だけはいい、最低の男だ。

 そういう認識で行こうと葵は決意した。