葵は部屋にいてもやることもなく、電話も無いので友達にメールの一つも打つことができないので、早々にお風呂に入ってリラックスすることにした。

 お風呂セットを持って霧吹邸の廊下を歩く。

 中庭はやはりどこかの日本庭園のようで、芸術的に刈られた植木に石畳は圧巻だ。

 自分がどこか老舗の高級旅館にでも泊まっている錯覚に陥るが、たまにすれ違うのは、パンチの効いた怖いお兄さんたちだ。

「姉さん、ご苦労さんです」

 と言われ、頭を下げる、どどどどぉもと小声で言い、早歩きになる葵の心境は複雑だった。

 丁度応接室から出て来た次郎は葵を見つけて声をかけた。

「どうしました葵さん、あ、風呂っすか?」

「あ、はい。いいですかね今?」

 まだ時間も早いし、この時間は誰も使わないだろうと考えての行動だ。

「あ、だいじょぶっすよ。どうぞこちらへ」

 小指の極端に短い手でお風呂の方へ案内される葵は、

「場所、分かりますよ」

 と、申し訳なさげに次郎に声をかける。