要塞のような事務所に戻ると、霧吹は応接室へ、葵は与えられた部屋へ。

 霧吹の後ろ姿を無意識に目で追う葵は、応接室に消える姿を見ると、小さく溜息をつき自室へ戻る。


「おお、帰ってきたか」

 霧吹の親父はもちろんのこと、霧吹組の組長だ。

 その風貌はカールラガーフェルドそっくり。そしてお約束のイケメンでも有名だ。

 この親父にしてこの息子。納得がいくが問題はその中身だ。

「いつ出て来た?」

 葉巻をくゆらす組長に、その隣の座り心地の良いソファーにふんぞり返る息子霧吹。

「出たのはこの前だな」

「そうか698番」

「番号で呼ぶんじゃねーよこら。で、なんだよ用事っつーのはよ」

「まずいことになった」

「何が」

「野兎組(のうさぎ)がはばを利かせてきた」

「潰せばいいじゃねぇか」

「修(しゅう)がからんでる」

 まじかよと漏らし、天井に目を向ける息子霧吹。

 その天井からは丸い金の玉を持った龍の絵がこちらを見下ろしていた。