「葵ちゃん、なんかさっきのすごかったね」

 葵の元に一人の男が声をかけてきた。

 見るからに体育学部の学生だが、この男はもっさいくらいにでかい頭と顔を持った、どう好意的に見ても中の下のような学生だ。

 白い半袖シャツからは逞しい筋肉のついた腕がのぞいていて、日焼けした顔に真っ白い歯は、青春真っ最中の匂いがぷんぷん漂っていた。



「あ、うん。ねぇ、なんか、へんな人、だったよね。びっくりしちゃった。あはは」

「あれ、どうしたの? なんか元気なくない?」

「あ、ちょっとなんか夏バテ? かなぁなんて。ははは」

「そっか、ちゃんと食べてる? 無理にでも食べなきゃだよね。そうだ、これからどっか食べ行く? どうせ今日の講義もう無いだろうから」

「え? そうなの? なくなっちゃうの?」

「さっき教授、学生に肩を貸してもらって帰ってったよ」

「あー……、だよねー、あんなの聞かされた後じゃ何もできないよね。そのおかげで休みになったならなんかラッキーって思っちゃうけど、ただ延びただけって話もあるもんね」

「だよね。早く終わって開放されたいよな。この単位取るの大変だしね」

「うん」

 霧吹のどうしようもない講義のおかげで、教授は気分を崩し、『休講』とし、数名の学生を伴って職員室へと戻って行ったということだ。