iPhoneがその役目をこれみよがしにし始めた。

 画面に表示された数字の羅列には見覚えがある。眉を寄せ、スライドし、その着信に答えた。

「電話してこないでって言いましたよね」

「……ふふふ、相変わらず冷たいですねぇ」

 あの野郎だ。こちらは誰なのかすら分からないっていうのに。

 もうこれで何回目だろうか。

 はっきり言ってるのにまだ分かってくれない。昨日だってこいつからの電話で怖くなって逃げ回っていたわけだし。

「昨日は追いかけっこの途中で消えてしまったから心配しました。でも夜遅くには家に帰ったんですね。良かったですよ」

「何それ、なんでそんなこと知ってるの?」私だって知らないことなのに。

 もしかして家の場所まで知ってるとか。

「僕は葵さんの彼氏なんですから、心配しなくていいんです。ちゃんとなんでも分かっていますからね」

「何が彼氏、気持ち悪い! 顔も名前も知らない人のことのんて、」

「環七 葵さん、僕はなんでもお見通しです。もうすぐ、あと何日かしたらあなたの前に姿を現しますからね。それまでは寂しいでしょうが、電話でのみの会話をお許しくださいね。ではそろそろ失礼します」

「ちょっと待ってよ」


 葵がもんくのひとつも言おうとするその前に電話はさっさと切れてしまった。かけ直しても繋がることもなく、永遠にコール音が鳴り響くだけだった。